セリエA移籍、東日本大震災を経て......
37歳、小笠原満男が語る矜持

  • 津金一郎●文 text by Tsugane Ichiro  五十嵐和博●写真 photo by Igarashi Kazuhiro

 テニスとサッカー、競技は違うけれど、似たところがあるなと感じましたね。厳しいトレーニングで追い込んでいくことや、情熱がなくなれば結果を残せなくなるのは、プロスポーツの世界はどれも一緒だなって。

 ラオニッチは「炎を燃やせ」と言っていますが、決して熱くなれという意味だけではないと思うんです。ピッチに立つときは、熱くなりすぎてもいけないし、淡々となりすぎてもいけない。心の内は熱いけれど、頭は冷静というようにメンタルをコントロールできなければ、どれだけ技術が高くても、前評判が良くても結果には結びつかない。それはテニスでもサッカーでも、勝負の世界で生きていくうえでは一緒だなって。

 ただ、テニスだとメンタルのコントロールは自分だけでいいけれど、サッカーの場合は自分のメンタルをコントロールするのにくわえ、年齢や性格、経験値で、"熱さ"と"冷静さ"の割合が異なる11人をひとつにまとめていかなければならない。若い選手は大きく勢いのある炎が良さだし、ベテラン選手はほどよい冷静さと闘志を併せ持っていて。そういう11人の良さを生かしながら戦う部分が、サッカーの奥深さであり、面白さでもあるなって改めて感じましたね。

 僕は中盤の真ん中のポジションで、前後左右すべての選手を見回しながらプレーしてバランスを取る役割なので、なおさらそう感じるのかもしれませんけどね。しかも、サッカーは状況がコロコロと変わるので、いつも同じことをしていればいいわけではない。チャンスになれば攻め上がり、ピンチになれば守備に下がるし、味方に指示も出す。攻撃しているときでも、ボールを奪われた場合を想定して敢えて攻撃に加わらないこともある。そのなかでプレーするうえで常に意識しているのは、チームのために働くということ。

 もちろん、高校を卒業して18歳でプロ入りした頃から、"チームのために"という考え方を持っていたわけではない。プロになった当時は、ポジションを獲りたい一心。早く認められて試合に出たくて、練習の紅白戦は少しでも爪痕を残そうと、「ゴールを決めたい」、「1本でもいいパスを通したい」という気持ちばかりでした。そうしたガムシャラにアピールしていた時期があって、少しずつ試合に出られるようになっていき、スタメンで使ってもらえるようになっていくなかで、考え方やプレーは変化してきましたね。

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