ニューバランスが、ランニングシューズの流れを変えた (3ページ目)

  • 取材・文/輔老心 text by Suketake Shin
  • 撮影/村上庄吾 photo by Murakami Shogo

「恥ずかしながら、僕の目が曇っていたという話なんです。当時は、膝をピーンと伸ばして、かかとから着地し、膝を曲げながらその衝撃を吸収して、かかとからつま先まで足裏をローリングさせるようにして、次に膝を伸ばしながら最後に指先で地面をしっかり蹴る。この動きがベストとされていました。ところが、高橋尚子の走りは、かかとからガツンと着地しない。足裏全体でぺたぺたぺたぺた走ってる。足を振り子のように前後に動かすだけ。……待てよ。もしかして、逆に、このフォームのほうがメカニズムとしてはええんちゃうか?と真剣に研究を始めたんです」

 さっそく大阪学院大学の山内武教授と共同で、高橋の五輪レースの動作分析をした。当時、世界最高のフォームといわれたマルレーン・レンデルス(ベルギー)とも比べてみた。すると、高橋は膝関節ではなく、主に股関節を使って走っていることがわかった。

 この研究内容を論文にして「月刊陸上競技」に発表。のちにダイジェスト版も「月刊ランナーズ」に掲載すると、スポーツメーカーのニューバランスジャパンから、「そんな走り方があるのか? もしそうなら、違う靴を作らなければならない」とコンタクトがあった。そして協同でトップランナーたちの走りを調べた結果、わかったことは、タイムが速いランナーほど「かかと着地」をしていないという驚くべき事実だったのだ。

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