【イングランド】実はサッカーの試合のほとんどは退屈だった

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

今季これまでリーグ戦だけで42ゴールを決めているメッシ。その活躍は試合のたびに世界中に伝わる(photo by Getty Images)今季これまでリーグ戦だけで42ゴールを決めているメッシ。その活躍は試合のたびに世界中に伝わる(photo by Getty Images)【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】僕のサッカーへの恋が冷めた理由~前編

 僕の友人が車を運転しながら、ラジオでフットボールのトーク番組を聴いていた。リスナーが電話で参加できる番組で、たいていの人は誰かの文句を言っている。自分が応援しているクラブの監督に、相手チームに、レフェリーに、ボールボーイに......。友人は自分も番組に電話して、こう言いたくなったという。「そんなこと、本当はどうでもいいって思ったことはないの?」

 実を言えば僕は、フットボールについてそう思うようになった。僕は左のひざがイカれるまでフットボールをプレイしていたし、これまで25年ほどフットボールについて文章を書いてきた。でも最近、よく思う。僕はもうフットボールが好きではないのだと。

 これには職業病のような部分もあるのだろう。もてはやされている世界の現実を、僕は近くで見すぎてきた。だが一方で僕は、中年男性の間ではかなり一般的だが、タブーと思われているせいであまり話題にされない症状にかかっている。僕はフットボールが世間で言われるほど面白いと思わなくなったのだ。

 まず言っておきたいが、選手たちに文句があるわけではない。フットボールにまとわりついている「カルチャー」(この点については後で詳しく書く)のせいで、選手は「金のためならどこの国でも行くセックスマニアの億万長者」と思われがちだ。この見方の裏側には、かつて選手が聖人君子のような生活をして、所属クラブを愛してやまなかったとされる「黄金時代」へのノスタルジーのようなものがある。しかし言うまでもないが、実際は選手をめぐる経済的状況が変わっただけだ。

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