池江璃花子、笑顔の8日間。4冠達成で「能力はひとつも錆びていない」 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 二宮渉●写真 photo by Ninomiya Wataru

 個人の派遣標準の53秒31はまったく頭にはなく、目標はフリーリレーの派遣標準のみだったが、池江は「53秒台はマスト」と宣言して決勝に臨んだ。そして宣言どおり53秒98で優勝。そんな池江の復活に引っ張られるように、4位の大本里佳までが54秒3台でリレーメンバー即時内定、という結果につながった。

「リオ五輪の時は全員が派遣タイムを切ってない状態で行ったのですが、今回はすごくハイレベルな4人が揃ったなと思います」

 東京五輪の勝負へ夢を馳せた池江だが100m3本のダメージは大きく、一時は50m自由形を棄権するかギリギリまで迷った。だが翌朝泳いでみると「意外に体が軽いと感じた」と、予選と準決勝に出場。最終日には50mバタフライ2本と50m自由形1本あったが、「4冠を獲得する」という強い決意で挑み、見事にそれを達成した。

「50m自由形決勝の入場の時は、『やってやるぞ』という気持ちでガッツポーズをしました。目標は24年のパリ五輪というのは変わらないのですが、東京五輪出場はいい経験にもなると思う。五輪までにはもっと体力もつくと思うので、全力でチームに貢献して使命を果たしたい」

 2種目目の100m自由形までは常に笑顔を見せていた池江だったが、50m自由形の日からはアスリートの顔に変わっていた。平井監督もその雰囲気の違いを感じ取っていた。

「この8日間の選考会の中で、表情も見違えるようになって以前のアスリートという雰囲気になっていた。短期間でこれだけ戻してくるということは、(東京)五輪まで(の進化)もたいへん期待できると感じた」

 この日本選手権ですばらしい結果を残し、今後の活躍に期待がかかる池江。だがまずは、この8日間のダメージの回復が必要だろう。彼女の精神力や類い稀なる素質を示したことで、東京五輪を通過点とする復活へ向けての道筋が見えてきた。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る