2019.11.14

北島康介の2冠よりも驚きだった
柴田亜衣の金メダル「これ五輪だよね」

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by AFLO

「600mくらいから自分がジワジワ追いついているのがわかったし、近づくにつれてだんだん力も湧いてくるようでした。最後はもう、必死に泳ぎました。750mのところで捕らえたと思ったけど、外国人選手はラスト100mや50mはスピードがあってすごく速い。でも、自分はあまりスピードがないので、とりあえずがむしゃらに手をまわして、自分なりに足を打って。ラスト50mは最後までヒヤヒヤしながら泳ぎました」

 600mでマナドゥを1秒54差まで追いつめた柴田は、700mからの50mでついに逆転。ラスト50mでマナドゥを突き放し、0秒42差を付けて8分24秒54の自己新で優勝した。

「自分でもすごくビックリしてるので、周りの人はもっとビックリしていると思います。とりあえずメダルを狙って泳いだけど、それが金だったのですごくうれしい。電光掲示板の名前の横に『1』という字が出た時は、『これ五輪だよね』みたいな感じで。田中先生にはレース前に、いつもの『焦らず、慌てず、あきらめず』と言われましたが、400mまでは『焦っちゃだめだ、慌てちゃダメだ』と頭の中で繰り返し、600mからは『あきらめるな、あきらめるな』と思っていました」

 指導する鹿屋体育大の田中孝夫コーチは「600mをターンした時に柴田のラップが目に見えて上がっていて、マナドゥとの差も縮まってきたので、『もしかしたら……』と。ここ数回の五輪では、800mは優勝タイムのレベルが低かったし、今年は800mも400mも絶対的な本命がいなかった。だから、自己ベストを更新すれば金もなんとかなるかな、と思いました」と話した。

「頭のいちばん奥では『優勝してくれればいいな』と思っていたけど、初出場だったので、いろんな意味で本人にもプレッシャーがかかっていたと思います。とりあえずは表彰台の3位以内、と話して、プレッシャーを和らげながら期待を高めてやってきました。『チャンスはある』と」

 柴田自身は勝因をこう分析した。

「日本選手権ではいいタイムが出たので、ずっとメダルを獲りたいと意識して練習をしてきました。それが強くなったいちばんの要因だと思います。大会へ向けてすごく上り調子だったので、必ずベストが出ると確信していました。自分を信じてやってきたことがよかったし、田中先生の練習をやれば必ず速くなる、と思って練習をしてきました」