2019.11.07

名言「チョー気持ちいい!」の直後、
北島康介はボロボロと涙を流した

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by PHOTO KISHIMOTO

 夜の準決勝はハンセンが1分00秒01とタイムをあげたのに対し、北島は1分00秒27とタイムを落とした。だが、平井は楽観視していた。

「康介は後半にミスをしてタイムを落としたが、ハンセンの前半の泳ぎにちょっと焦りがあった。だから、穴が見えたと思ってむしろ喜んでいました」

 15日の決勝を前に、平井は北島に「スタートしてからの25mとターンしてからの15mは、絶対にこっちのほうが速い。だから、あわてないで行こう」と話した。予選と準決勝のレースを分析すると、ターンしてから15mの泳ぎは北島のほうが0秒3~4秒は速い、というデータが出ていたからだ。もし、ハンセンが前半の50mを全米選手権と同じ27秒台で入ったとしても、北島は75m付近で並べると考え、ラスト25mの泳ぎを入念にチェックした。

 午後8時すぎの決勝。飛び込んだ北島がハンセンを少しリードして浮き上がり、そのまま25mを通過したとき、平井は心の中で「勝った」と思った。ハンセンの泳ぎは明らかに硬く、50mの折り返しはトップながらも全米選手権の27秒台にはほど遠い28秒22。北島との差は0秒04しかなかった。

 ターンして浮き上がると、北島が頭ひとつリードした状態。「50mをターンして浮き上がったときには、前にハンセンがいなかったので勝ったと思い、そこからは無心に泳いだ」と振り返る北島は、ゴールのタッチもピタリと合わせて1分00秒08でゴール。ハンセンとの差を0秒17にしていた。

 平井は「準決勝でタイムは落ちたが、振り返ってみれば、康介が予選でしっかり泳いだことが、ハンセンにボディブローのように効いたのだと思います。決勝だけではなく、3本のレースすべてが勝負だと思って臨んだのがよかった」と話した。

 北島は「今回のハンセンの結果を見て思ったのは、彼は世界記録を出してからの1カ月間は本当に苦しかったんじゃないかな、ということです。これが世界選手権やパンパシだったら大丈夫だったけど、五輪という特別な舞台だったので、そのプレッシャーに耐えられなかったのかもしれない」と述べた。