2バタの恐怖に陥った坂井聖人。失意のどん底も東京五輪は諦めない (4ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by Matsuo/AFLO SPORT

「うーん、正直、54秒台の前半か真ん中ぐらいでは入っているかなって思っていました。タイムを見た瞬間は......もう悔しいしかなかったです。今年は意地でも代表復帰を狙ってこの大会に挑んでいたので、代表落ちしたのがショックすぎて......。ラスト50mで失速してしまったのですが、原因がよくわかりません」

 ラスト50mの失速――。坂井は話をしている間も、その原因を探しているようだった。ひとつ明確だったのは、ターンの際、タッチが合っていなかったことだ。予選から坂井はそのことが気になっていたと言う。

「予選からタッチが合っていなくて、修正したつもりだったんですけど、決勝ではそれを考えることができなくなって......タッチが流れたのでターンする時に力を使って、ラスト50mに影響したのかもしれないですね。もちろん、肩のこともあると思うし、なにかが違うからタイムが出なかったんです。ただ練習ではタイムが悪くなかったので、結構自信はついてきたのですが。うーん、なんで失速したのか、ちょっとわからないです」

 坂井はそう言って、表情をしかめた。

 失速については、自分のなかでもまだ整理できていないことが、言葉からも読み取れた。昨年はパンパシフィック選手権での瀬戸の優勝をテレビで見て刺激を受けたが、同時に悔しさも感じた。今年は世界選手権で瀬戸と同じ舞台に立って一緒に戦いたいと思ってきたが、果たせなかった。

「今年もまたテレビ観戦って悔しいですよ。みんなが世界選手権で泳いでいるなか、ひとりでの練習になるので......どうモチベーションを高めて練習したらいいのかわからない。いまは正直、気持ちを切り替えるのは難しいですが、『頑張るぞ』という気持ちを持って、この悔しさを2020年の東京五輪出場に向けてぶつけていきたいと思っています」

 昨年からの取り組みや、大会までの流れは悪くはなかった。だが、大事なレースで厳しい現実を突きつけられた。失速の原因を突き止め、とことん水泳と向き合い、研鑽(けんさん)を続けていくしかない。

 まだ東京五輪への出場が断たれたわけではない。0.04秒差で敗れたリオの悔しさは、東京でしか晴らせない。坂井の復活への道はまだ始まったばかりだ。

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