2019.05.01

北島康介の名言「ちょー気持ちいい」が
生まれたアテネ五輪の舞台裏

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by AP/AFLO

 ターンして浮き上がると北島が頭ひとつリードした状態。北島は、「50mをターンして浮き上がった時には、前にハンセンがいなかったので勝ったと思い、そこからは無心に泳いだ」という。ゴールのタッチもピタリと合わせて1分00秒08でゴール。ハンセンとの差を0秒17にしていた。

 平井は「準決勝でタイムは落ちたが、振り返ってみれば康介が予選でしっかり泳いだことがハンセンにボディブローのように効いていたと思います。決勝だけではなく3本のレースすべてが勝負だと思ってやったのがよかった」と話した。

 最初の勝負を制して自信を取り戻した北島を、200mで阻む者はいなかった。18日の決勝ではスタート後の浮き上がりから前に出てトップで50mを折り返すと、そのままトップを維持して2分09秒44でゴールして2冠獲得を果たした。後半に追い上げて2位になったダニエル・ギュルタ(ハンガリー)に1秒36の大差をつける圧勝だった。150mまで北島に食らいついていたハンセンは、最後に差されて2分10秒87で3位だった。

 すべての競技が終わった後で、北島はこう話した。

「人前で涙を流したのは初めてでした。やはりプレッシャーはあったし、五輪という緊張感から解き放たれた瞬間だったと思います。体調が悪かったり調子の波が激しかったのは自分自身が一番わかっていたし、日本選手権前からメンタルの面で照準が合わなかったり、誤差みたいなものが生じていた。でもそれを気にしたら自分が不安でしょうがなくなると思い、そうなってしまう自分が怖かった。五輪という特別な大会だからこそ、一度自分が弱音のような言葉を口から出してしまったら、僕はそこで負けるんじゃないかと思っていた......。強がっていた部分も多少あるけど、必ず五輪で金を取るという強い思いだけを、心の中で描くようにしていました」

 世界の水泳界を新たなステージへと引き上げた北島は、2016年に現役を引退するまで、世界のトップをひた走り、新たな歴史を築き続けた。

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