2019.05.01

北島康介の名言「ちょー気持ちいい」が
生まれたアテネ五輪の舞台裏

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by AP/AFLO

 北島はのちにこう振り返っている。

「練習で調子がよくても、本当の体調は予選を泳いでみないとわからない。練習で自信があってもレースで速く泳げなかったら、そんな自信は一瞬で吹き飛んでしまう。だから、予選の前は緊張していたけれど、タイムを見て正直ほっとしたというか、初めて戦えると思った。

 もし予選でハンセンが59秒台を出していたら、決勝で勝てなかったかもしれないし、結果的に僕は余裕を持てた。今思えば、僕があそこで彼にプレッシャーをかけていたのかもしれない」

 夜の準決勝はハンセンが1分00秒01とタイムを上げたのに対し、北島は1分00秒27とタイムを落とした。それでも平井は楽観視していた。「康介は後半ミスをしてタイムを落としましたが、ハンセンの前半の泳ぎにはちょっと焦りがあった」

 15日の決勝を前に、平井コーチは北島にこう言った。

「スタートしてからの25mとターンしてからの15mは、絶対にこっち(北島)の方が速いから、慌てないでいこう」

 予選と準決勝のレースを分析しても、ターンしてから15mの泳ぎは北島の方が0秒3~4秒速いというデータが出ていた。もし、ハンセンが前半の50mを全米選手権と同じ27秒台で入っても、75m付近では並べると考え、北島と平井コーチはラスト25mの泳ぎを入念にチェックした。

 午後8時過ぎの決勝。北島がハンセンを少しリードして浮き上がり、そのまま25mを通過した時に、平井コーチは心の中で「勝った」と思った。ハンセンの泳ぎは明らかに硬く、50m折り返しはトップながらも、全米の27秒台には程遠い28秒22で、北島との差は0秒04しかなかった。