不振が続くリオ五輪銀メダリスト。
競泳・坂井聖人に何が起きたのか

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • 千葉格●写真 photo by Chiba Itaru

 坂井は、3歳のときに兄の影響で水泳をスタートした。小学6年のときにバタフライに転向し、柳川高校(福岡)1年のとき、100mバタフライで高校総体優勝。3年のときに200mバタフライで高校総体優勝、世界ジュニア2位、国体で優勝し、瀬戸に憧れて早稲田大学に進学した。2016年のリオ五輪で銀メダルを獲得したのは、21歳のときだった。

 若きメダリストとして注目を浴び、11月には彩の国スポーツ功労賞を受賞した。まだまだ伸び盛りで、次の東京五輪に向けて金メダルを狙いにいくのは必然だった。

 ところが帰国後、なんとなく気持ちが乗らず、練習にも身が入らなくなった。

「リオ五輪後、燃え尽き症候群みたいになったんです。自分では意識していないし、そんな気はなかったんですが......ボンヤリして周囲からは『気持ちがキレているんじゃないか』と言われるようになり、なんか練習にも身が入らなくて......」

メダル獲得という目標を達成し、その安堵感や達成感から次の目標を見失い、一時的に気持ちが上がらない。そうしたことは坂井に限らず、メダリストに起こりうることだ。

ただ、坂井の場合、気持ち的には下がっていたが、さほど深刻に考えなかった。そういう状況でもタイムが出ていたからだ。リオ五輪後のインカレでは、200mバタフライで1分54秒06の大会記録を出して優勝。2017年の日本選手権の200mバタフライでは1分53秒71で瀬戸を抑えて優勝した。タイムも成績も安定していた。

「このとき、気持ちはそこまで入ってなかったんですけど、練習はできていたし、レースの後半も全然バテないんです。自分でも『なんでこんなに調子がいいんだろう』って不思議でした。たぶん、コンディションがすごくよかったんだと思います。日本選手権のときも53秒台が出ましたが、タイム的には納得できない。もっといいタイムを出せる自信がありました」

 東京五輪に向け、無類の強さを見せる坂井への期待は大きく膨らんでいった。だが、好調は長くは続かなかった。

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