北島康介が日本の平泳ぎを託した男、渡辺一平の底力をパンパシで見た! (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 築田純●写真 photo by Tsukida Jun

 その決勝で渡辺は、レースプランをまったく考えず、流れの中で自分の感覚を信じる泳ぎに徹した。最初の50mを3位で折り返すと、100m通過は2番手。150mでは再び3位になったが、ラスト50mで挽回して、2分07秒75でシニアの国際選手権大会での初優勝を決めた。

「すべて感覚で、ストローク数も考えずに自分の気持ちのまま泳ぎました。ラスト勝負という思いも全然なかったです。最後はすごくきつくて、自分がどんな位置にいるかもわからなかったけれど、ラストは勝ちたいという思いだけでガムシャラに泳いでいました」

 世界記録を出した時の泳ぎは、最初の50mの入りが28秒95。2位だった昨年の日本選手権では28秒70で、3位になった世界選手権決勝も28秒96と、世界記録のときと比べて悪くないものの、勝てないレースが続いていた。そんな渡辺が復調の手がかりをつかんだのが、今年6月のバルセロナ大会だった。

「ヨーロッパグランプリ最初のカネ大会ではチュプコフに負けたけど、『自分はもっといけたはず』という感覚も残っていた。だから、次のバルセロナでは彼に惑わされずに、自分自身のいいレースをすることを心がけて泳いだら、いいタイムも出て優勝できた。周りのことをあまり気にせず、自分の泳ぎに集中している時が一番いい泳ぎができるし、納得いくレースができて勝負強さも見せられていたので、自分自身が200mをどうやって速く泳ぐかということだけを心がけるようにしました」

 納得できる練習を積み重ねられないまま臨んだレースだったが、展開を考え過ぎることなく、無心で泳ぐことができた。それが結果につながり、次へ進む手応えとなった。

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