号泣からの再起。萩野公介が東京五輪に向けて必要だった苦悩の8日間 (4ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Fujita Takao

 これまで順調にエリートとして歩んできた萩野が、初めて経験する苦しい大会となった。最後の400m個人メドレーでは、その苦しさを受け止めて試合に臨んだ。そこで彼が感じた楽しさは、これからの萩野を強くするひとつのきっかけになるだろう。

 平井コーチは今大会の萩野についてこう語った。

「レースのあとで萩野に話したのは、『プロフェッショナルとは何だ、ということをちゃんと考えなさい』ということです。私生活を充実させてコンディションを整えて、いい練習をするのはもちろん、みんなの期待に応えるための強い気持ちを持つためには、人間力の向上も必要でしょう。萩野と話していて彼は『実力不足だ』と言いましたが、それは総合力ではないかと思います。あいつくらい練習を頑張る者はいないというのも確かですし、水泳のことを水泳だけで解決するには限界がきていると思う。金メダリストなのだから、いろんな人との関わりを広げて、いろんなことをいろんなところから学ぶのも彼にとっては必要なことだと思います」

 萩野は平井コーチから"克己心"という言葉を言われたという。

「"己に打ち勝つ心"。平井先生から言われたこの言葉が今大会で得たものです。本当に今回は自己コントロールというのが一番の課題だと思いましたから」と言って苦笑した。

 大会を終えて心新たに前を向こうとしている萩野。彼にとってこの世界水泳での経験は、東京五輪に向けて最も必要なものだったのかもしれない。

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