【水泳】苦悩したロンドンのヒロイン、鈴木聡美が取り戻した「本当の自分」 (2ページ目)

  • 田坂友暁●取材・文 text by Tasaka Tomoaki
  • 二宮渉●写真 photo by Ninomiya Wataru

 鈴木にとってロンドン五輪後の3年間は、本当に苦しい時間だった。

「記録を出そう、出そうと意識しすぎて、泳ぎが硬くなってしまう」
「練習では良い泳ぎができているのに、それがうまくレースで表現することができない」

 レースの度に、そのような言葉を繰り返していた。あとには、「私は練習を積まないと自信が持てないので、もう一度、自分が自信を持てるようにがむしゃらにトレーニングに励みたい」と言葉を続け、何とか前向きに考えようとするが、どうしても心と体が一致しない。そのズレは、2015年の4月に大きな歪みとなって現れた。

 ロシア・カザンで行なわれる世界水泳選手権の代表選考を兼ねた、日本選手権の100m平泳ぎ準決勝。ロンドン五輪で見せたキレは影を潜め、持ち味であり、鈴木の泳ぎを支えるキックも水が引っかからないままフィニッシュし、1分09秒07の自己ベストから大幅に遅れるまさかの準決勝敗退。レース後には、顔を覆って大粒の涙を流した。

「前半のスピードも持久力も、メンタル面も含めて今は足りないものだらけ。当然の結果だと思います」

 大きなズレの原因は、気負いにあった。シンデレラガールといわれ、一躍世界にその名を知らしめた鈴木についた『メダリスト』という肩書きが、両肩に重くのしかかっていたのだ。

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