【水泳】勝利を自信に変えて。萩野公介が見せた底力

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by(C)Yuya Nagase/PHOTO KISHIMOTO

 翌日の23日の400m自由形では、孫が真剣勝負を仕掛けてきた。

「最初から先行して100m通過時点では体半分はリードしておきたかった」と萩野は話すが、50mの折り返しでつけていた0秒57差を、100mでは孫に0秒23差に縮められて、そこからはリードを許した。

 そして「200mからは少し落して最後の100mで勝負しようと思っていた」という萩野。ところが、孫が萩野を少しリードして泳いでいたことで、感覚が狂って、「200~300mは少しペースを落とし過ぎてしまい、最後まで体力を余らせるレースになった」という。

 結局その区間も孫は萩野の29秒43、28秒67というラップライムより少しずつ速いラップで泳いでその差をジワジワと広げると、ラスト100mも27秒53、26秒44と萩野を少しだけ上回るラップタイムで泳いで、200mの雪辱を果たしたのだ。孫の慎重な泳ぎは、ターンの前には必ず左右を見て、両隣の萩野とパクの位置を確認するほどだった。

 五輪王者の孫をそこまで警戒させたのも、今季、萩野の自由形が進化しているからだ。平井コーチは4月の日本選手権以降、パクの足の蹴りが休むことなく打ち続けているのを参考にもして、硬めのフィンを使ってのキックの練習を取り入れたという。それによって脚力が強くなり、最後まで脚が止まらなくなった。

 さらにインターバルトレーニングの工夫やスタートの練習やターンの時には水中でのドルフィンキックを必ず6回は打つことを徹底的に意識させ、心肺機能を向上させた。それらの効果でスピードがつき、9月の日本インカレでは100mで48秒75を出したほど。4月の日本選手権での400mに続き、アジア大会の200mでも、09年の高速水着時代に内田翔が出していた日本記録更新を果たしたのだ。

 だが彼にとってはそれはすべて、オールラウンダーとして成長し、目標とする個人メドレーでの世界記録樹立を果たすための準備だ。そしてその準備は着々と進んでいる。萩野はリレーを含めて4個の金メダルを獲得し、アジア大会を確かな成長の場とした。

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