【水泳】北島康介が復帰。「チーム平井」が生み出す競泳界の新たな波 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by YUTAKA/AFLO SPORT

 練習ではすでにチームに合流した萩野と松田が一緒に練習をするなど、互いに競り合い、刺激し合って大いに盛り上がっているという。

「地方のクラブでずっとマンツーマンでやっていた松田が、みんなと練習する面白さを一番感じていると思いますね。僕のところに有力選手が集中してしまうのはいけないことかもしれないけど、今のところマイナス面は見当たらない」

 こうした環境をつくれるようになった要因として、平井は「アテネ五輪前に自分のところに中村礼子が移籍して来たのが大きいのでは」と語る。当時、トップ選手の移籍は異例で、誰もが「五輪の前年なのに、トップ選手がクラブを移っていいの?」と思う時代だった。

「康介とマンツーマンに近い形でやるよりは、負担にはなるが礼子の穏やかな感じをチームに入れた方がプラスになると思ったんです。でも、以前なら日本代表選手が所属クラブをやめれば、たぶん現役を引退していたでしょうね。その意味でも、あの移籍で水泳界の流れが変わったと思います」

 ただし、平井は、「日本の競泳界は基本的に大学の選手が中心になっているため、その環境はなかなか変わらないだろう」とも考えている。

「学生にプラスになれば、大学に外部の刺激を入れてもいい。うちのクラブには今、五輪のメダリストが6人いるし、世界記録保持者もいるからチームとして成立しているといえます。トップ選手が所属していないと、(クラブを続けることは)難しいのではないかと思いますね。今はたまたま盛り上がっているけど、他のクラブで同じようにやろうとしても、難しい面も出てくると思うんです」

 同時に、平井には、五輪でメダルを獲った選手たちが、その後も競技を続けられる環境をつくらなければいけないという思いがある。近年は、結果を出した後、北島のように外国へ行く者も多いが、それは「国内ではさまざまな干渉があってやりにくいという理由があるから」と平井は言う。

 実績のある日本の選手が、世界観を広げるために海外へ出ていくことにも意味はあるだろうが、逆にキャメロン・ファンデルバーグ(南アフリカ/ロンドン五輪100m平泳ぎ金メダル)のように、日本で日本人選手と一緒に練習をしたいという世界のトップ選手もいる。

 トップ選手がのびのびと水泳を続けられ、なおかつ海外の選手が日本に来たいと言ってきたとき、気軽に受け入れられる場を作りたいという気持ちも、平井にはあった。

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