【水泳(視覚障害)】秋山里奈「8年越し金メダル」の舞台裏 (2ページ目)

  • 星野恭子●取材・文 text by Hoshino Kyoko
  • 越智貴雄●写真 photo by Ochi Takao

 このまま試合を投げてしまってもおかしくない状況だったが、秋山は強かった。「8年間、いろいろあったけど、この日のために頑張ってきたんだ。ネガティブなことを考えても仕方ない。行くだけ行こう」

 決勝では見違えた。得意のスタートを決めると、持ち味である前半からグイグイいく積極的な泳ぎが戻っていた。身体半分リードして折り返すも、疲れの見え始めた後半、後続の激しい追い上げを受けたが、ライバルたちの位置など知る由もない。

 心肺も手足もかなり苦しくなったが、「この1本しかないんだから、死ぬ気で行こう」。ただ自分の泳ぎに集中し、逃げ切った。タイムは1分19秒50ともう一つの目標だった世界記録更新はならなかったが、夢にまで見た金メダルはしっかりと手にした。

 苦しい日々を励まし、ともに乗り越えてくれたのは、遠藤基コーチだ。ここ2年間、自己ベストがでずスランプに陥ったが、「お前の背泳ぎはまだ改善できる。お前をチャンピオンにしたい」と熱心に指導し続けてくれた。コーチの言葉を、教えを信じて、今日まできた。

 そんなコーチには悲願の金メダル獲得をどう報告するのか、表彰式後に尋ねてみた。

「二人で一緒に獲った金メダルだから『おめでとう』って、首にかけてあげたい」と少し照れくさそうに、でもきっぱりと話してくれた。金色のメダルが、秋山の両手の中で一層の輝きを放った。

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