【水泳】北島康介、4度目の五輪へ。
日本選手権で見せつけた「達人の泳ぎ」

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 藤田孝夫●撮影 photo by Fujita Takao


 そのひとつが、五輪の100mでのメダル獲得を意識した取り組みだ。

 200mについては、昨年の世界選手権こそ追い込み不足によるスタミナ切れで2位に止まったものの、ロンドン五輪での優勝の確率はかなり高いと思える仕上がりだった。

 だが、100mは、昨年の世界選手権王者、アレキサンダー・ダーレオーエン(ノルウェー)が、前半の50mを北島が持つ日本記録より0秒10速い27秒20という驚異的なタイムで入り58秒71を出していた。ダーレオーエンの異次元の泳ぎに対抗するのはかなり厳しいと誰もが思った。

 それでも北島は「200mの方がチャンスはあると言われているけど、どうしても諦められないというか、『100mでも勝負してみたい』という気持ちは強いんです。これまでも100mは簡単に勝ってきたわけではなく、強い選手がいたからそれを追いかけるという気持ちでやっていたので」と意欲的な姿勢を崩さない。

 その勝負への第一歩が、今回、前半の50mを27秒台で入る試みであり、準決勝、決勝と思惑通りの泳ぎができたことで、勝負への足掛かりをつかんだ。今後、この泳ぎを自己評価して58秒中盤のゴールタイムにつなげていくことができれば、勝機も見えて来るはずだ。

「去年の世界選手権の直後は100mに対してすごく悩んでいたが、今回の自己新記録と攻めの泳ぎができたことはすごい。自分のことを知り尽くした達人のような泳ぎ。30歳になろうとするこの時期の成長は頼もしい限りだし、楽しみだ」と、日本代表チームの平井伯昌ヘッドコーチも今回の結果を高く評価する。

 北島の成長のひとつが、泳ぎの変化にある。以前のように足の蹴りでスーッと伸びるのではなく、強くなった腕の掻きも使ったスムーズな泳ぎ。北島自身も「スピード感は非常にいい。足で無理やりいっていないから、最後で浮いても足が水にかかるのだと思う」と言う。

 それは、昨年末から、動作の各部分を単独で見るのではなく、腕や足、つなぎの部分までもしっかり考える、総合的な泳ぎを意識してきた成果でもある。

「キックだけをやるとか、足がかからないから腕で掻くというんじゃないんです。そういうところは2年前までとはちょっと違ってきている。やっぱり体の入れ方や水の感覚のつなぎをよくしたり、ボディポジションを良くしないと。パワーじゃ(外国勢に)勝てないから、いかにいいポジションで水の中を少ない抵抗で進めるかを考えているので」

 自分の泳ぎの完成度をさらに高めようとする北島。この100mの結果で彼の心の中には、五輪3大会連続2冠へ向けての意欲がムクムクとわき上がってきたはずだ。

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