銅メダル獲得の北口榛花、最終投てきで逆転の裏にあった高校時代の自信「私は6投目もできる子だ」 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by AFP/AFLO

強くなって見える世界

 今回の世界陸上選手権の決勝では1本目に3位につけると、「62m台でメダルはあり得ないと思った」と言いながらも、メダルへの思いが少しずつ芽生えていた。「(目標は)入賞と言っていたから、メダルがほしくなったと言ってもくれないかなと思っていた」と笑う北口だが、その小さな欲が5投目までのミスにつながったのだろう。しかし、最後の6投目は無心ともいえる状態だった。

「5位に落ちた時はなにか、『これが自分の、乗り越えなきゃいけない局面だ』と思っていました。ここ最近の試合は前半の投てきを意識していたから、6投目が強いというイメージはなかったと思います。でも高校時代は6投目が強かったので、その気持ちを思い出して、『私は6投目もできる子だ』と思っていて......。『誰より投げる』というのではなく、自分がもっと投げられるはずなのに、できないというのがすごく嫌だったので。『今の自分が投げられる最大限の距離を投げたい』と思って臨みました」

 コーチとの関係も東京五輪以降は変わったと話す。それまではコーチの言うことが絶対だったが、今では自分の意見も言えるようになり、「やっと普通のコーチと選手の関係になったのだと思う」と笑う。そしてこの日も、試合中にケンカをしたと明かした。

「コーチのほうが緊張していて、私が投げる時に力んでいたとは思うけど、『集中しろ、集中しろ』と毎回言ってきたので、『ここにいて集中しない人はいないでしょう』と思って腹が立ったのでケンカをしたんです。これで結果が悪かったら最悪の雰囲気で帰ることになっただろうけど、メダルが獲れたからよかったです。ただ、最後に『おめでとう』と言ってくれたけど、『6投目が64mいかなかったのが残念だ』と言われたから、『あーっ』と思いながら聞いていました(笑)」

 今回のメダル獲得で北口への注目は一気に高まってくるだろう。今後は来年の世界選手権(ブダペスト)と2024年パリ五輪が続き、2025年には世界選手権が東京で開催される。そこまで休める年がなく、メダルを期待され続ける、精神的な負担は大きいはずだ。こういった状況に苦しんだ選手は過去にも多い。

 だが、北口はその懸念にも「パリ五輪までは今のコーチとやるつもりで日本にもそんなに帰らないし、シーズン中はチェコを拠点にしてヨーロッパで試合に出るつもりなので大丈夫だと思います」とあっさりと言う。

 彼女なら、そのおおらかな性格で、プレッシャーも跳ね飛ばしてくれそうだ。

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