サニブラウン・ハキームが語った100m準決勝と決勝の雰囲気の違い。メダル獲得には「近いようで遠いイメージ」 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Naoki Nishimura/AFLO SPORT

ハイレベルな戦い

 翌日午後に行なわれた準決勝は、少し肌寒さを感じる好条件とは言えないなかで、タイムを伸ばせなかった。サニブラウンが走った第1組では、アカニ・シンビネ(南アフリカ)と、トレイボン・ブロメル(アメリカ)が9秒97の同タイムで1位と2位。サニブラウンもスタートはよかったが、40mすぎからの加速区間で少し硬さが出てしまい、10秒05の3位と着順での進出を逃した。それでも、初出場だった2017年世界選手権の200mでいきなり決勝進出を果たした時のように、運の強さに救われた。

 第2組は、予選トップのカーリーを筆頭に9秒97のザーネル・ヒューズ(イギリス)に加え、前大会優勝のクリスチャン・コールマン(アメリカ)や3位のアンドレ・ドグラス(カナダ)などが揃う最強の組だったが、記録は意外にも伸びず、1位のカーリーが10秒02で、2位のコールマンは10秒05。最後の第3組も2位までは9秒9台前半だったが、3位は10秒06と、サニブラウンの記録が上回り、着順以外プラス1番手での決勝進出が決まった。

 初めて経験する100mの決勝の舞台。サニブラウンは準決勝より緊迫感がないと思ったという。

「準決勝はみんなが『ここを抜けよう』と思っているので緊迫していたけど、決勝は何かリラックスしている感じで。『自分の走りをしよう』という雰囲気が感じました。だから僕もけっこうリラックスしていたと思います。でも横一線で何が起こるかわからないから、とりあえずは『やってやろう』という気分でウォームアップもしたし、トラックに入ってからもしっかり集中力をきらさずに、コーチから言われたことをしっかりできるように、というのをインプットしてスターティングブロックに入りました」

 しかし、「スタートしてからは記憶が飛んでしまった」と言い、「最後の20~30mで横のふたりくらいが前に出ているのが見えたのを覚えているだけ」と苦笑する。スタートのリアクションタイムは0.147と予選や準決勝より0秒02以上遅れ。向かい風0.1mでカーリーの優勝タイムは9秒86で2位と3位は9秒88。隣のレーンのアーロン・ブラウン(カナダ)には競り勝ったが10秒06で7位という結果だった。

「ゴール後は悔しかったけど、『やりきった』という感じのほうが強かったですね。だけど、『ここからは決勝で戦わなければいけないんだな』とも思いました。こういう舞台で走りきるというのはやっぱり難しいけど、それをできたというのはものすごい収穫だと思います。ここで戦うには、(同日に)準決勝を1本走ったあとでも2本目をしっかり走れる強さが必要だと思う。こんなところで記憶が飛んでいたらダメだな、というのもありますが、ここでしっかりファイナルを経験できたことで、来年の世界選手権へ向けていいスタートがきれたと思います」

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