「心も体もズタズタになっていた」福島千里を現役終盤に指導したコーチが明かす、故障後の姿 (2ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 山崎コーチも同じようにアキレス腱を痛めた経験があった。海外でレースをすると、世界のトップ選手との筋力差を目の当たりにし、『やっぱり身体が足りない。筋力をつけなければ』と誰でも思ってしまうという。「筋肉がドンドン増えることで、筋肉の反射角度が変わってきている気がして動きも変わってくる。それで今度はアキレス腱をカバーする筋肉を増やすと、ぜんぜん走れなくなってしまう。『アーッ、同じことをやってるな』と思い、『ちょっと違うんじゃない』と話をした」と振り返る。

福島千里について語る山崎一彦コーチ福島千里について語る山崎一彦コーチこの記事に関連する写真を見る「練習に対しては真剣だから、ちょっとやりすぎたのだと思います。納得するまでやる集中力はこれまで見たことがないほどだったし、女子ではあそこまで集中できる選手はいないと思います。ただ、バネがないので、反発をもらえない柔らかい走路を走っているような感じで。それでも11秒5~6まではいけると思っていたけど、僕の力不足でそこまでは戻せませんでした。本人は最後、涙ながらに『後悔もいっぱいある』と話していたけど、昔のことや今のことも含めて止めたくなかったのだと思うし、それと同時に、一流選手としての引き際というものを考え続けていたのではないかと思います」

 20年10月の日本選手権出場を逃した福島は、21年4月から順大大学院スポーツ健康科学研究科博士前期課程に進学した。その経緯をこう話す。

「ずっと悶々として競技のことばかり考えていたので、『考えるにしても、もう少し理論的に考えたり、整理したりしたほうがいいのではないか』とアドバイスしました。彼女がやってきたことは決して間違っていないが、今はケガをしてしまって歯車がすべて狂っているので、それを整理してみればいいという感じで。それに彼女の場合は人づき合いに積極的というタイプではないから、大学院に行く時間でいろんな人と話をする機会が増えるのはいいだろうと。僕としては強く勧めたわけではないけど、ちょうどコロナ禍で部外者が来ることも難しかったと思うので、それもあって彼女は進学を決めたのだと思います」

 21年4月からのアシスタントコーチ就任も、山崎コーチと将来のことを話しているなかでそうなったという。

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