マラソン日本歴代5位の記録を出した土方英和。それでもライバルとの差は「大学時代から開いたまま」

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 日刊スポーツ/アフロ

「MGCは難しいレース」

 その一方で、ライバルたちは日々力をつけてきている。

「びわ湖から1年後、東京マラソンで再度、健吾さんと走りましたが、だいぶ離されてしまったというか、圧倒的な差を感じました。同世代の選手も意識します。特に相澤(晃・旭化成)と達彦(伊藤・Honda)は、今は種目が違いますけど、いずれマラソンにきたら健吾さんのような結果を残すと思うんです。ふたりとの差は大学時代から開いたままで、まだ詰められていない。特に達彦は同じチームにいて、一緒に走るからこそ今のままじゃかなわないと感じるので、自分のいいところをもっと伸ばしていかないといけないですね」

 差し込み解消のトレーニングを進めつつ、マラソンの練習は地道にしている。5月の合宿では大学時代を思い出し、距離を踏んだ。7月には函館マラソンのハーフで夏のロードレースを経験し、さらに今年中に海外も含めてマラソンを1本走ることを考えている。来年のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)に向けて着々と準備を進めている段階だ。

「MGCは自分にとっては難しいレースですね。まずペーサーがつかないじゃないですか。僕は、ペースの上げ下げが得意ではなく、なるべく一定のペースで走りたいタイプ。ペースが上がると、どうしても先頭についていかなくてはと思ってしまい、周囲が見えなくなってしまうんです。そういう精神的な部分の成長もしていかないといけない。MGCはいろんな意味での強さが求められますが、今の僕はまだまだ強さが足りない。強さにより磨きがかかるのは、パリ五輪の次かなと思いますが、だからといって今回諦めたり、経験を積むとかは考えていません。今回は今回で勝負していきたい。学生は箱根駅伝、社会人にとっては五輪が最大の舞台になるので」

 2年後のパリ五輪、その先のロス五輪まで見据えているが、土方は競技者としての後の人生の青写真も描いている。

「ベテランの強さを発揮する息の長いランナーになりたいと思っていますし、その経験を踏まえて、引退したら指導者になりたいです。大学時代に前田(康弘)監督にも言われたのですが、身につけたスキルをゼロにして社業に専念するのもいいですけど、僕はそのスキルを活かしていきたい気持ちが強い。大学に戻れるなら戻って、ユニバーシアードの代表選手を出したり、僕は箱根で優勝できなかったけど、その目標を学生たちと一緒に達成するのってすごくいいなぁと思っています」

 もちろん、その前に世界と戦う覚悟でいる。東京五輪ではマラソンで大迫傑が6位に入賞したが、土方は非常にリアルに目標を見定めている。

「五輪では5000mや1万mは日本記録以上の走りをしないと入賞はできないと思うんです。でも、マラソンでは、さすがに金メダルは現実的じゃないですけど、暑さなどコンディションによっては2時間10分をきれば入賞できたりします。そこで漠然とした順位を考えるのではなく、大迫(傑)さんの順位を越えるとかリアルな目標なら届く可能性が高いと思うんです。僕は世界一になりたいというよりも世界と勝負をして結果を残したい。そのためにも、またMGCに勝つためにも速さよりも強さが必要だなと思っています」

 1年後、差し込みが昔話になっていれば、2年後、パリの街を土方が走っていても何ら不思議ではない――。

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