マラソン日本歴代5位の記録を出した土方英和。それでもライバルとの差は「大学時代から開いたまま」 (2ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 日刊スポーツ/アフロ

厄介なのは「差し込み」

「タイムは、キロ3分をきるペースでずっと引っ張ってもらえたらまだ出せそうだなと思いました。課題は、30キロからの走りですね。健吾さんにペースを上げられた時についていけなかった。その改善のためには走り込みをしてのスタミナ強化かなって思ったので、今年の東京マラソンの前は今までやったことがない180分ジョグとか、新しい取り組みをしたんです。でも、それがレースに活きているかどうかはわからなかったです。レース中に激しい差し込み(わき腹痛)が出てしまったので......」

 土方は、厳しい表情でそう言った。

 突然やってくる差し込みは、土方を悩ます厄介な問題になっていた。

「初フルの東京マラソンの時も10キロから差し込みが出てしまって、じわじわとお腹が痛くなって中間地点過ぎぐらいに猛烈に痛くなりました。でも、ちょっとペースを落とすと落ち着くので、そのペースで押しきるみたいな感じで、なんとか走りきって2時間9分だったんです。それが出ず、もし同じ別府大分(毎日マラソン)を走っていたら吉田(祐也・青学大―GMO)君と同じぐらいに走れたんじゃないかなと思ったんです。彼はそこで結果を出して、大学4年でスポットライトを浴びましたが、自分もやれたはずなのにと思うと悔しかったですね」

 学生時代にも差し込みは出ていたが、社会人になって頻度が高くなった。3回目のフルマラソンとなったベルリンマラソン、そして今年の3月の東京マラソンでも差し込みが起きた。しかし、2回目のびわ湖では差し込みが出ず、普通に走りきることができたので2時間6分台のタイムが出た。普通に走れば、このくらいのタイムが出ることをつかめたが、一方でいつ出るのかわからないので常に不安を抱えてレースに臨むことになる。また、課題を克服しようと練習をしてレースに臨んでも差し込みが起こると、それを解消することが優先されるので、課題克服にたどりつかないまま終わってしまった。

「レースを無事に走り終えたら、次はここを改善しようとなるんですが、そこまでいかないのでやってきたことの効果があったのかどうかわからないんです。一度、差し込みが出たら、そのことしか考えられなくなるので......。正直、どういった傾向で出るのかわからない。人によっては試合の時だけというケースもありますが、僕はふだんのジョグやポイント練習の段階から出てしまう。もちろん病院に行って検査したんですが、特に問題はありませんでした。ある先生に、腸腰筋や呼吸に問題があるんじゃないかと言われて、今はそこの改善に取り組んでいます。これで成果が出れば、もっとコンスタントに結果を残す自信があるので、なんとかしたいですね」

 土方の切実な思いが伝わってくる。

 アスリートであれば万全の状態で、100%の力を発揮して戦いたいと思うのは、当然だ。自分の人生がかかっているのだ。だが、現実は課題、練習、試合というサイクルでの成長が思うように進まずにジレンマを抱えている。

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