レース中に話しかけ話題になった山下一貴。「1回だけすごいタイム出して終わるのはイヤ」と取り組む自身の課題

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 日刊スポーツ/アフロ

「あいつは安定して強いな」と言われたい

「ロス五輪(2028年)よりもパリ五輪(2024年)のほうが自分のなかで勢いがある状態で挑戦できると思うので、一番いいタイミングはパリかなと思っていますし、そこを今、一番の目標にしています。やっぱり、五輪は、世陸よりも注目度が高いじゃないですか。そういう舞台で日本代表として日の丸を背負って走りたいですね」

 五輪のマラソンと言えば、昨年の東京五輪でのエリウド・キプチョゲの圧倒的な走りが記憶に新しいが、五輪となると彼のような選手と戦うことになる。

「東京五輪は、外国人勢が強かったですし、そのなかでもキプチョゲ選手には本当にレベルが違うなっていうのを見せつけられました。大迫(傑)さんも強かったですが、世界との勝負となると大迫さんでも6位に終わったことを考えると、世界で勝っていくのは本当に難しいなと思いましたね。キプチョゲ選手は35キロから40キロにかけてその前の5キロよりも40秒以上もタイムを上げていきましたが、それに対応するにはやっぱりスピードを上げていかないといけないですね」

 これからパリ五輪を目指し、MGCで勝てるように強化を続けていくが、同じチーム内には井上大仁ら強力な選手がいる。彼らを越えていくことがパリへの道にもつながっていく。

「大八木監督に言われた井上さんの記録を抜くことは、まだできていないですし、背中もまだ見えていません。正直、自信をなくすぐらいの差がありますが、井上さんが35歳になる前には抜いていきたいですね」

 井上とはまったくタイプが異なるが、山下の考える理想のランナーとは――。

「安定した強さを持つランナーになりたいです。僕が駒澤大1年時に大塚(祥平)さんが4年だったんですけど、絶対にレースを外さなかったんです。その安定した強さって、すごく大事だと思っていて、安定感がないと駅伝とかでも使いにくいじゃないですか。1回だけすごいタイム出して終わるのはイヤなので、毎回走ったなかで結果を出し、『あいつは安定して強いな』と言われたいですね」

 スピード強化に苦しんでいるが、今のつらさは先につながるもの。これがマラソンという競技と一本の道につながれば、駒澤大の先輩の中村匠吾がMGCで見せた快走を今度は山下が実現してくれるはずだ。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る