初マラソン日本記録達成の裏側。星岳はライバルの余裕の笑みに「マジか」と驚くも勝負所を見極めていた

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 産経新聞社

世界選手権とMGCを見据える

 大阪マラソン・びわ毎日マラソン統合大会の結果で、星は来年の秋に開催されるパリ五輪のマラソン代表選考レース(MGC)の出場権を得た。さらにアメリカ・オレゴン世界選手権のマラソン代表にも決まった。世界選手権は、星にとってどういう位置づけになるのだろうか。

「世界の舞台に立てると思っていなかったので、すごくうれしいですし、ワクワク感もあります。ただ、海外のレースですし、ぺースメーカーがつかないチャンピオンシップの大会はどういう展開になるのだろうかという不安もあります。それに7月のオレゴンの朝は、それほど暑くならないようなので、ペースが上がり、揺さぶりもかなりあると思うのでタフなレースになる。そのイメージをしつつ、今ある不安をできるだけ潰して自信を持ってスタートラインに立ちたいと思っています」

 オレゴンでの世界選手権は、来年のMGCの仮想レースとしてとらえて積極的にチャレンジできるはずだ。ペーサーがいないなか、相手と駆け引きをしつつ、レース展開を読み、仕掛けどころを考えてのレース運びが求められる。頭を使う展開になるが、それができる選手が世界に通用するアスリートになることができる。星の目標も「世界で戦える選手になる」ということなので、そのための第一歩となる貴重な機会になる。

 それが終わると今度はMGCに向けての準備が加速していくことになる。前回のMGCを星は見ていたというが、何か感じるものはあったのだろうか。

「前回の時は設楽(悠太)選手が飛び出して、驚きました。本当に何が起こるかわからないですよね。最終的にはラストの勝負になりましたが、今はラストで勝ちきるための力がまだ足りないと感じています。あのレベルにいくには、もっと自分の強みを見出していかないといけないです」

 MGCで勝ちきるために、自分の強みと課題について星は、どう考えているのだろうか。

「自分の強みについては、大阪マラソン・びわ毎日マラソン統合大会のように最後までもつスタミナが自信になりましたし、レース中に落ち着いて対応できたことは今後、どんなレースにも活かせる強みだと思っています。課題は、まだ1回しかマラソンを走っていないので、暑さや風が強いとか、ペースが激しく上下動するタフなレースになった時にどうなるのか。まだ自信を持てていないので、練習のなかで経験していくしかないかなと思っています。あと、前回のMGCもそうですが、勝負所がラストスパートになる可能性が高いので、そこで勝つためにもトラックシーズンを活かしてスピードを強化したいですね」

 プランどおりにMGCのチャンスをつかんだわけだが、現在26名のファイナリストがいる。最終的には、もう少し人数が増えて、前回以上の激戦になることが予想される。ただ、このチャンスを手にすればパリ五輪への道が開ける。

「パリ五輪は、目指すべき大会になりますが、僕の最終目標は(2028年の)ロサンゼルス五輪のマラソンでメダルを獲得するなど結果を出すことです。そう考えるとパリ五輪に出場して、結果を求めていくのはロサンゼルス五輪にもつながると思うので、なんとかMGCで勝ちたいですね」

 箱根駅伝は前を行く相手を抜く、勝負レースだった。大阪マラソン・びわ毎日マラソン統合大会は、タイムを出したが、それはあくまでも勝負に勝ったことの副産物だった。世界選手権もMGCも勝負レースだが、星はそういうレースで勝つことにやりがいを感じている。

「勝つことは、学生時代から意識しています。これから日本記録を出せればと思いますけど、単純にそこを目指すのではなく、タイムは勝利を争うなかでついてくるものだと思っています。ひとつひとつのレースを勝つことで本当の力がついてくるし、タイムが高速化していくなかで勝つ選手の価値がより高まっていると思うので、僕はそういう勝てる選手になりたいです」

 今年1月の箱根駅伝は1区で仙台育英出身の吉居大和(中大)が快走し、区間新を出した。大阪マラソン・びわ毎日マラソン統合大会では同じ仙台出身の星が快走して優勝した。今年は仙台からいい風が吹いている。

「その風にこれからも乗っていきたいですね(笑)」

 最初の世界の舞台となるオレゴンで強豪という風と交われば、また一歩、星が目標とする「世界」に近づいていけるだろう──。

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