新種目「男子競歩35km」は日本のお家芸となるか。50km廃止で変わるレース展開 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Takeshi Nishimoto/AFLO

 50kmなら、最初の10~15kmがプロローグという感覚で集団に大きな動きはないが、35kmは最初から本気のレースが始まる難しさ満載の距離。2kmすぎから自分のペースに抑えたと話す野田は、「35kmだと、飛び出した選手も後半持つか不安なってくるし、うしろから追いかける選手も追いつけるか不安になってくるところもあるので、けっこう難しい距離だと思う」と話す。

 今大会は、直前に出場を取りやめたが20km東京五輪3位の山西利和(愛知製鋼)は、35kmという距離をこう分析する。

「僕の場合はまだ(35kmという)距離に少し不安があるが、もしやるようになればある程度高いアベレージで頑張っていけるのが持ち味だから、それを生かすようなレースを選択すると思います。50kmだと怖さはあるが、35kmになれば20kmの選手が力業でもっと荒らせると思うし、いろんなパターンが出てくるのではないかと思います」

 今後の記録について、日本陸連の今村文男競歩担当シニアディレクターは、「(世界で)非公認では2時間22分を出した選手もいるし、3万m(30km)の世界記録は92年のものですが2時間01分44秒。それを考えれば2時間20分くらいになる可能性はある」と話す。

 そこは選手たちもすでに考えている。松永が話した1km4分05秒ペースを最後までキープできれば2時間22分が出せる。また、優勝した川野も1月に極度の貧血になった影響から本調子ではなかったが、指導する酒井瑞穂コーチは「スタミナ練習が不足していて中盤以降に不安はあったが、松永選手がいるので4分05秒前後での入りは準備していた」という。

 4位の丸尾までが派遣設定を突破するレースを見た今村シニアディレクターは、「やっぱり20kmのスピードが必要だと思う」と言い、こう続けた。

「一方では、ペース配分が非常に難しい距離。20kmと50kmでは心理的な限界値が違い、20kmは4分ペースを維持するなかで3分50秒にまで上げたりするが、50kmは速くて4分10~20秒で、ペースの切り替え変えも必要。35kmも展開としては後半が上がるネガティブスプリットになるのは変わらないですが、松永が3分53秒で入り、終盤の落ち込みも4分30秒台で抑えたのは、50kmをやっていた者としては新しいプラン。

 日本が50kmで2015年以降、五輪や世界選手権でメダルを獲れたのは、20kmも並行して強化してきたのが要因になっていると分析している。心理的な限界値を排除しながらケガなく速く、長く歩ける力を養成して行かなければいけないが、ここ数年は記録的にも20kmでは世界のトップ10に複数選手が入っているので、その20kmのスピードを生かしながら35kmにシフトしていければ、日本にとっては可能性がある種目になっていくと思う」

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る