山を制する者が箱根を制す。3代目山の神・神野大地が語る5区のポイント「小涌園から最高地点までで全部を出しきること」

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by KYODO NEWS

 神野の頭のなかには5区のレースプランが明確に描かれていた。

 "最初の5キロは無理せず、本格的な上りに入ってから追い込みをかけて勝負しよう"

 だが、思いのほか、体が動き、坂とは思えないハイペースで上がっていった。このあと、神野は信じられない区間記録(23.2キロ:1時間16分23秒)を達成するのだが、入りから調子がよかったのだ。だが、他の選手と一番タイム差が出たのは入りの5キロではなく、山の後半区間だった。

「僕は、山で一番大きなポイントになるのが大平台や宮の下の急坂ではなく、小涌園から最高地点までの4キロだと思います」

 神野は、そう語る。

 山には山対策の練習をこなしてきた選手や上りが得意な選手が投入される。当然、最初は難なく上っていくが11.7キロの箱根ホテル小涌園から最高地点に向かう坂になると、多くの選手がペースダウンし、そこで差が開いていた。

「各区間のラップを見ていくと、小涌園までは区間記録のペースで走っている人もいるんですけど、小涌園から最高地点までのラップがよくないんです。逆に僕や柏原(竜二・2代目山の神)さんは、その間のラップがすごく早くて、他の選手と2分ぐらい差をつけていました」

 しかし、なぜ小涌園から最高地点までの間で、これだけ差が開くのか。その坂に、どんな難しさがあるのだろうか。そして、神野はどのような考えでその坂を攻略しようとしたのだろうか。

「僕は、小涌園から最高地点の間で、全部を出しきる。最高地点がゴールという意識で走っていました。多くの選手は、最高地点を到達した後の下りでの勝負を考えて、その手前の上りで気持ち的にセーブするんだと思うんです。後輩の竹石(尚人)も下りでの勝負を考えていた。でも、僕の経験から、出しきっても足はわりと余裕があるんです。下りを利用して足を回せるし、惰性で下れる。それにそもそも下りじゃ差がつかないんですよ。上りで頑張れる選手が下りも制するので、僕は5区を制するなら最高地点までで全部を出しきる気持ちでいくべきだと思っています」

 5区は平地と異なり、坂がメインなので選手はペース配分を慎重に考える傾向にある。だが、5区は慎重さよりも攻めていくマインドが必要というのは、きつい坂を上るうえで最後は気持ちだということとつながっているからだろう。

 ただ、小涌園から最高地点までの坂は、タイムを出すのが難しい理由があると言う。

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