2021.08.10

山の神・神野大地が大迫傑の走りを分析。「大きなポイントになった」と指摘したことは?

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by JMPA

 キプチョゲら先頭集団は、ハーフを1時間05分15秒で走り、47人いた集団は徐々に選手が振るい落とされていく感じになった。この時、服部もまさかの失速になり、先頭集団からこぼれ落ちていった。

「勇馬は、僕の同期で箱根駅伝をともに戦ってきた仲間であり、親しい友人でもあるんですけど、走りを見ていて思ったのは、昨年五輪が開催されていたらもっといい走りができたかもしれないなということでした。というのも昨年は、開催時期に合わせて調整が進み、すごく走れていたからです。今回、東京五輪に向けて、練習で100%の準備ができていないことは報道などからも聞いていました。

 MGCでマラソン男子代表になって2年間、国を背負い、注目され、ものすごいプレッシャーがあったと思います。結果を残さないといけないという思いから、故障したら普段であればじっくり治して次に進めると思いますが、五輪代表選手としての期待が焦りになって、故障を完治させることができずに長引かせてしまった。実際、この1年は満足できるレースはできていないんじゃないでしょうか。それでもハーフまで先頭集団で行けたのは勇馬に力がある証拠でしょう。中村さんもそうですけど、勇馬の走りからは期待と重圧のなかで結果を出すことの大変さを改めて感じました」

 大きくレースが動いたのが31キロだった。先頭集団にいたキプチョゲがスパートをかけ、同じケニアのアモス・キプルト、ローレンス・チェロノ、そしてアブディ・ナギーエ(オランダ)、バジル・アブディ(ベルギー)らを一気に置いていった。

「すごいスパートでした。キプチョゲ選手は、後半があるので30キロまで様子を見ながらレースをしていたんですけど、残り12キロになった時、自分の余力はこのくらいだから、ここから何秒まではペースを上げられるというのを頭の中で計算していたと思います。それで、もうペースを上げてもいいなと判断し、スパートをかけました。42キロのなかでいかに100%の力を出しきるのかを考えて、実行する能力が非常に高いですね。

 また、キプチョゲ選手は、ほかの選手に一番ダメージを与えるペースアップをしています。30キロから35キロまで14分28秒で30秒ペースをアップしましたが、3分オーバーで走っている状態から一気に2分55秒を切るペースに上げると、早いなって感覚と同時に体にけっこうなダメージがきます。キプチョゲ選手のスパートは、まさにこのパターンでした」

 キプチョゲのスパートに大迫はついていけず、8位に下がり、35キロを越えるとトップとの差は51秒に開いた。2位集団とも少し差が開いていった。

「大迫さんにとっては、ここが大きなポイントになったと思います。僕の個人的な意見でいうと、この時に2位集団についていっていたらメダルの可能性はあったのではないかと思います。たらればですが、最後まで2位集団のペースはそれほど上がらなかったので。大迫さんも、キプチョゲ選手同様に42キロのなかで自分の力を発揮する能力が高い選手なので、その時の体の状態やペースから冷静に判断したのだと思いますが、その後、37キロで2位集団に16秒差というところまで追い上げましたからね。

 ただ、この追い上げには本当に心が打たれました。大迫さんとは、これまで何度か一緒に練習させてもらったんですが、それまでどんな練習をどのくらいしているのか、さっぱりわからなかったんです。でも、一緒にやるとこんなに練習しているんだというのが身に染みてわかりました。僕はそれまで大迫さんはセンス型のランナーだと思っていたんですけど、才能よりも努力で結果を生み出してきたランナーだとわかりました。

 昨日、今日、練習の質やボリュームを上げてきたのではなく、学生時代から地道に増やしていって、やっと今の領域になれるんだっていうのを肌で感じることができた。誰もマネできないくらい練習をしていたからこそ五輪という舞台で、最後にあれだけ追い上げることができたんだと思います」

 レースは、そのままキプチョゲがトップを快走し、笑顔を見せてゴール。リオ五輪に続いて大会2連覇を達成した。この暑さのなか、普通に2時間8分台の好タイムを出すこと自体、驚きでしかない。そして、2位集団を猛追した大迫は6位の順位をしっかりとキープし、見事、入賞を果たした。