野口みずきが「絶対できない」練習をする選手2人。女子マラソンで日本記録更新の可能性は高い (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Kyodo News

 そして、マラソン選手としての体つきについてもこう言及する。

「ふたりとも体幹がしっかりしていて線が細くなく、昔のマラソン選手っぽいところがあるのが魅力です。私は身長が小さいのにストライドが大きかったので、筋力を鍛えないとマラソンを速いタイムで走り切れなかった。それでフィジカルトレーニングもしっかりやったけど、走ってつける筋肉も大事でお尻と太ももの間にポコッと盛り上がるくらいの筋肉がついていました。松田選手も同じような筋肉がついていて、筋力があると可動域も広がるし、長い距離に耐えられるだけのパワーも兼ね備えられるので、絶対に必要です」

 42.195kmを走り切るには体を軽くするだけではなく、筋力も必要なのだ。選手たちの意識がチームで戦う駅伝で結果を出すことに重きを置く傾向になり、本来の身体づくりが軽視されてしまったことが女子マラソン長期低迷の要因のひとつになっていた。「それとともに、選手自身の体作りの意識も少し低くなっていたのではないか」と野口さんは言う。

「実業団も走ることで給料をもらうので実質的にはプロですが、サラリーマン的な考えでやっていた人たちもいた気がします。後輩たちを見て、『この子たちはいったい何のために、好きなはずの陸上をやっているんだろう』と思った瞬間もありました。

 数チームの合同合宿の時に、ランニングコーチが設定ペースよりも速く走ると後ろのほうで文句を言っている選手たちもいました。2000年前後の高橋尚子さんや千葉真子さんの時代は、合宿では設定ペースを無視した、レースのバトルのような練習をしていたとも聞いていたので、そういう時代とは違うんだなと感じましたね」

 女子マラソンは、男子と同じように勝負強さと速さが試される東京五輪代表選考のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)が選手の意識を変える大きなきっかけとなった。最後の1枠を争うMGCファイナルチャレンジ設定記録は2時間22分22秒。20年1月の大阪で松田がそれを突破すると、3月の名古屋では一山が松田を上回り、女子単独レース日本最高の2時間20分29秒を出すハイレベルな戦いになった。

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