箱根駅伝「花の2区」を彩ったエースたち。渡辺康幸、相澤晃らの快走 (3ページ目)

  • 酒井政人●文 text by Sakai Masato
  • photo by Sankei Visual

 そのダニエルも越えられなかったのが、「1時間7分の壁」。渡辺、三代、モグスの3人しか入ることができなかった1時間6分台の領域に、東海大・村澤明伸(現・日清食品グループ)が踏み込んだことには驚かされた。

 1年時(2010年)も10人抜き(14位→4位)の区間2位(1時間8分08秒)と快走したが、2年時(2011年)はさらに凄まじかった。20位でタスキを受け取ると、10kmを10000mのベスト記録(当時28分44秒23)を大きく上回る28分20秒前後で通過。本人も何人抜いたのかわからないというゴボウ抜きで、タスキを3位でつなげている。タイムも1時間6分52秒とすばらしかった。

 村澤のあと、1時間6分台に到達する日本人選手はなかなか現れなかったが、順天堂大・塩尻和也(現・富士通)が2019年に大仕事を成し遂げる。

 2年時に3000m障害でリオ五輪に出場し、3年時には10000mで27分47秒87をマーク。「学生ナンバーワン」と言われていた塩尻は19位でスタートし、終盤を意識した走りでじっくりと攻めながらも10人抜きを演じる。タイムも、先輩・三代直樹が保持していた記録(1時間6分46秒)を1秒上回り、日本人最高記録を20年ぶりに塗り替えた。

 そして記憶に新しい前回大会(2020年)では、四半世紀の間で1、2秒ずつしか上書きされてこなかった日本人最高記録が一気に更新されることになる。主役となったのは、花の2区でランデブー(並走)を見せた東洋大・相澤晃(現・旭化成)と東京国際大・伊藤達彦(現・Honda)だ。

 全日本大学駅伝3区の区間記録保持者である相澤が14位で走り出すと、同2区の区間記録を持つ伊藤に6km付近で追いつく。ここからふたりの激しいバトルが始まった。

 相澤が前に出ると、伊藤もペースを上げて抜き返す。並走が続く中で、何度もペースチェンジが繰り広げられた。20.5km付近でようやく伊藤を突き放した相澤は、最後の上りも激走。"モグス越え"を果たしただけでなく、新時代への扉を開く1時間5分57秒を叩き出した。一方の伊藤も1時間6分18秒で走破し、塩尻が前年にマークした日本人最高記録(1時間6分45秒)を大きく上回った。

 社会人となったふたりは12月4日の日本選手権10000mでも激闘を演じて、ともに日本新記録樹立&東京五輪参加標準記録突破を果たしている。箱根から世界へ。花の2区から、次はどんなヒーローが生まれるのだろうか。

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