アイルトン・セナと中嶋悟のいたF1チームがホンダ陸上部の理想 (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by Sato Shun

 小川監督は藤原や石川の五輪代表選考を経験しており、MGCもそれと同じように考えていたが、少し勝手が違ったようだ。

「MGC出場権を獲得するために複数のレースを走った選手は、もちろん得るものも多かったと思いますが、心身のダメージは相当だったと思います。調整を含め、相当なパワーを費やさないといけなかった。MGCは盛り上がりましたが、あれが毎年あると......4年に一度で十分です」

 実際、戦いに挑んだ者にしかわからない苦労があったことは想像に難くない。ただ、そこに懸けた選手や監督、スタッフの熱が見ている人に伝わったからこそ、MGCが盛り上がったと言えるだろう。

 MGCや東京2020は多くのエリートランナーが参戦したが、毎年正月に開催されるニューイヤー駅伝も日本のトップランナーが多数出場する。それなのに盛り上がりはいまひとつである。

「箱根駅伝より注目度が劣っているひとつの要因は、ストーリー性だと思います。箱根駅伝は、年間を通じて1月2、3日に向かって盛り上がっていくストーリーがありますが、ニューイヤー駅伝は正月にポッと開催されている印象があります。

 もうひとつはコースのドラマ性でしょうか。箱根駅伝には山があったり、距離が長かったり......。ニューイヤー駅伝は距離もそれほど長くなく、コースも比較的単調なので、ドラマが起こりにくい。特徴あるコースのほうが、見ている人は面白いと思います。極端な話、箱根駅伝のコースでニューイヤー駅伝をやってみてもいい」

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 もちろん、さまざまな問題が絡んでいるので、箱根のコースを走るのは現実的に難しいが、レースが面白くなる場所を新たに考えるのは、実業団駅伝を活性化させるためには必要なことではないだろうか。

 そのニューイヤー駅伝で、即戦力3人が加わったHondaは今回、ほかのチームに負けない戦力を誇る。

「選手層は厚くなったと思いますが、優勝するにはあとふたりほど選手が必要です。それでも勝つためには、まず今いる選手がしっかり走ること。全員が100%で走るのはなかなか難しいですし、ライバルチームも強いので簡単ではないですが、優勝を目指してやるしかないと思っています」

 最後に小川監督に聞いた。これからどんなチームにしていきたいと考えているのだろうか。

「ニューイヤー駅伝優勝と、弊社の事業(2輪、4輪、ライフクリエーション、航空機関連など)のように、全方位(中距離からマラソン)で世界にチャレンジしていくことがチームの目標です。多くの方に『何かしてくれそうだね』と期待させ、子どもたちが憧れるようなワクワク感があり、それでいて圧倒的に強いチーム。イメージでいうと、アイルトン・セナがいて、中嶋悟さんがいた80年代のホンダF1チームです。そういうチームをつくることができたら、みなさんがこちらを見てくださるのかなと思っています」

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