箱根駅伝の名勝負。抜きつ抜かれつ「紫紺対決」の戦略合戦はすごかった (5ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Kyodo News

 その走りに一番驚いたのは順大の高橋謙介だった。なぜこんなに早く追いつかれたのか理解できず、パニックになったという。

「仕上がりもよくて、自分でもずっと9区で勝負するつもりでいた。追いつかれて逆転されるのは初めての経験だったが、周りからは僕がいるから大丈夫だと思われていたので、プレッシャーを感じていたのかもしれない」

 高橋謙介は自分の走りを見失い、牽制合戦になった。そしてそれは、オーバーペース気味だった高橋正仁に余裕を与えることになった。ラスト1kmからの高橋正仁のスパートが決まり、駒澤大は17秒差のトップでアンカー勝負に持ち込んだ。

◆箱根駅伝でダークホースとなるか。古豪・順大復活の可能性は十分にある

 だが、駒澤大の粘りはここまでだった。

「勝ちを確実にするために配置した高橋謙介で逆転されたから一度は負けを覚悟したが、駒澤大のアンカーの走りを見て、これならと思い直した」と沢木監督が言うように、順大で3年連続10区を走る宮崎展仁(4年)が6.5kmで駒澤大を引き離し、余裕を持って4冠達成のゴールテープを切った。

 大八木コーチもこう振り返る。

「紫紺対決らしい見せ場は作れたが、うちはアンカーが弱点だった。去年1区を走った島村が使えなかったので、一昨年と同じように駒不足。8区の武井拓麻(4年)をアンカーで使う手もあったが、往路で負けてくるだろうから、早い段階で順大をとらえなければダメだと思ってこの配置にしました。去年いい思いをした分、選手たちに甘えもあったと思うので、今年の悔しさは来年に生きると思います」

 2002年はエースの岩水を欠く逆境の中でも復路で盛り返して2位になった順大に対し、層の厚さを自信に「復路も含めて完璧な区間配置ができた」という駒澤大。前年の大八木コーチの言葉の通り、復路の5区間すべてで区間4位以内の安定感を見せて優勝。そこから4連覇を達成し、強豪校としてのゆるぎない位置を確立した。

 4年間の紫紺対決は、能力のある選手に恵まれた中で、それをどう生かして戦うかという両指導者の戦略合戦でもあったのだ。

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