新谷仁美、タイムが爆発的に伸びた転機。「自分の気持ちが解放された」 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by AFLO SPORTS

 引退する前の新谷は、「走るのは嫌い」など、陸上選手らしからぬ発言に注目が集まることもしばしばあった。だが、その発言の裏には「注目してもらいたい。観ている人に陸上に興味を持ってもらいたい」という思いがあった。

 その思いのとおり、陸上とはまっすぐ向き合っていた。

 2012年ロンドン五輪で出場した1万mでは、序盤から福士加代子(ワコール)、吉川美香(パナソニック)とともに日本勢3人で先頭を引っ張り、30分59秒19の自己新記録で、入賞まであと一歩の9位になったが、それでも満足できなかった。

「一般の人から見たら、『結局9位でしょ』ということで注目されないから、仕事はできていないと思います。世間の目を引くのはきれいごとじゃなくて順位なんだなと思いました」

 また、トラックにこだわる理由も独特で、「私はけっこう牙を剥く性格だし、売られたケンカは買ってしまうタイプ。『そう思っているんだったら見返してやるぞ!』みたいなところがあります」と、勝気すぎる性格から注目が集まりやすいマラソンではなく、トラックを選んでいると話していた。

 そんな彼女が25歳の若さで引退したことは、当時かなりの衝撃だった。

 ところが、3年後の2017年の夏には陸上界に戻ることを決め、18年6月から競技に復帰。楽しいはずだと思っていた一般人の生活は想像よりも面白さがなく、デスクワークもつらかったという。

 その生活で気づいたのが、「走ることは自分の特技であり、その方が自分に合っているし、生きていることを実感できる」ということだった。

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る