美女ランナー卜部蘭が中学時代に
培った反骨心「公園をグルグルした」

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 村上庄吾●写真 photo by Murakami Shogo

 そして、オリンピックイヤーの2020年を迎えたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、東京五輪は延期になった。

 自粛期間中はチーム練習をできない日々が続き、卜部はひとりでトレーニングを行なった。人の少ない早朝などに、課題である持久力強化のために長い距離を走り、横田コーチも重視するフォーム作りを意識した上り坂のトレーニングをするなど、いつもとは違う練習もしてみた。そんな中で思い出したのは、中学時代のことだ。

困難な状況でも前向きに自分の行くべき道を進む卜部蘭選手困難な状況でも前向きに自分の行くべき道を進む卜部蘭選手「中学時代も新宿区で(走る)環境としてはよくなかったので、『環境のいい学校には負けないぞ』と思って、近くにある戸山公園をグルグル走り、そこで反骨心が生まれました」

 自粛期間中のトレーニングの成果は、7月のホクレンディスタンス・チャレンジ3000mで現れた。それまでの記録を15秒以上も更新する9分06秒18の自己ベストを達成したのだ。そして、8月のゴールデングランプリ1500mには、日本記録更新の手ごたえを持って臨んだ。

だが、そのレースでは、好調を維持する田中希実(豊田自動織機TC)に圧倒されてしまった。日本新のペースで引っ張る田中に卜部もしっかりとついていたが、ラスト400mからジワジワと突き放され、最後は大差で敗れた。卜部は自己ベストの4分11秒75で走ったものの、田中は日本記録となる4分05秒27でゴールしていたのだ。

「自分が狙っていた日本記録を目の前で破られたのは、すごく悔しかったです。でも、1300mまでは日本記録のペースで走れたので、課題はラスト1周だということもわかりました。田中さんがそこまで走ってくれたからこそ、『ラスト1周の走り次第で見える世界が変わってくるんだ』と感じました。そのペース変動の中でどうやって自分を出し切れるかを追求していきたいと思います」

 そう話す言葉からもわかるとおり、卜部は決して下を向かない。彼女の性格を横田コーチはこう評価する。

「自分と向き合っている中でも、他者と自分を比較してしまう瞬間があって、そのためにネガティブな思考になってしまう人も多い。ところが卜部の場合、ずっと悔しい思いをしながらもここまで来ることができたのは、自分をどう高めていくか、ということを大事にしているからだと思います。強制的に他者と自分を比較せざるを得ない瞬間でも、他者から学ぼうとするポジティブさが彼女にはあるんです。

  今回の田中選手の走りを見て、『自分に足りないものはここ』と言えるのも、純粋にすごいと思います。マイペースで自分のことに専念して惑わされないところは、うちのチームの中でも一番アスリート向きだと思います」

 10月1日からは、新型コロナウイルスの影響で6月から延期になっていた日本選手権が開催される。

「これまで悔しい経験をいっぱいして、いつも『次こそは、次こそは......』という思いでやってきました。だから、日本選手権では連覇を達成したい。日本記録が更新されたので、自分の目標も、4分04秒20の東京五輪参加標準記録にステップアップしました」

彼女が競技を続けていく上で、この明るく前向きな性格がマイナスに働くことはないだろう。 やがて世界で活躍するであろう卜部蘭の姿を、今は楽しみに待ちたい。

プロフィール
卜部蘭(うらべ・らん)
1995年6月16日生まれ。東京都出身。積水化学所属。
元陸上選手の両親の影響もあり、小学生の頃から陸上競技に触れる。
大学4年時にインカレ で優勝し、母娘の2世代優勝が話題になった。
昨年の日本選手権では、800mと1500mで優勝を果たし2冠を達成している。

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