大迫傑の快進撃は、「魔法のシューズ」のデビュー戦から始まった (2ページ目)

  • 酒井政人●取材・文 text by Sakai Masato
  • photo by Toshihiro Kitagawa/AFLO

 1897年に創始されたボストンマラソンは、近代オリンピックに次ぐ歴史を誇る大会で、毎年4月の第3月曜日に開催される。15kmまでは下り基調ながら、30km過ぎに「ハートブレイクヒル(心臓破りの坂)」と呼ばれる上り坂が待ち構えている、攻略の難しいコースだ。高速化が顕著になっている近年のメジャーレースとは異なり、ペースメーカーがつかない大会でもある。

 しかも、2017年のボストンは暑く、レース当日も午前10時のスタート時点ですでに20度を超えていた。日差しを避けるように白いキャップをかぶった大迫は、トップ集団の後方で冷静にレースを進めた。

「なるべく駆け引きに対応しないように心がけていました。トップと離れたり、ついたりしていたので、キツそうに見えたかもしれませんが、実際は自分のペースでいっていただけです。マイル(約1.6km)でいうと4分55秒~5分00秒のペースくらい。わりと終盤まで余裕はありましたね」

 そして30km付近まで先頭集団に食らいつく。その後、トップ争いから脱落するが、終盤も力強い走りを見せた。

「まだ余裕はあったんですけど、ゴールまで10km近くある。あそこでつくと途中で振り切られて、終盤に大崩れしてしまう可能性があります。余力を残した状態で、自分のペースでいきました。終始冷静に走れたと思います」

 大迫は優勝したジェフリー・キルイ(ケニア)と51秒差、2位のゲーレン・ラップ(アメリカ)と30秒差の3位でゴールに飛び込んだ。気温が25度近くまで上がる厳しいコンディションで2時間10分28秒の好タイム。伝統のボストンで日本人が表彰台に上ったのは、1987年大会を制覇した瀬古利彦以来、30年ぶりの快挙だった。

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