2020.02.07

室伏広治は五輪優勝後に思った。
「金メダルよりも重要なものがある」

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by PHOTO KISHIMOTO

 ところが、状況は試合後に動き始めた。アヌシュの尿検査にまつわる疑惑の新聞報道が流れたのを機に、日本陸連がJOCを通じてIOCに疑惑解明を申し込んだのだ。翌23日の男子円盤投げでは、優勝したローベルト・ファゼカシュ(ハンガリー)が競技後のドーピング検査で規定量の尿が出ず、検体の再提出を拒否して失格になっていた。アヌシュもファゼカシュと同じコーチに指導されている選手だった。

 アヌシュの場合も、試合終了直前になって係員に付き添われてトイレに行くという不審な行動をとっていた。彼もまた再検査を拒否したが、その後に検体のすり替えが判明して失格となり、29日には室伏の繰り上げ優勝が決定した。

 帰国を延ばしていた室伏は、現地のメインプレスセンターで記者会見に臨んだ。

「これまで精いっぱい努力して毎日の練習に耐えてきた結果が、このような形になったことをうれしく思います。本当は表彰台の上で金メダルを直接受け取りたかった、というのが本音です。自分も金メダルを望んでいますが、その金メダルよりも重要なものがたくさんあるのではないか、と思いました」