東海大が主力抜きで全日本制覇。箱根で史上最強メンバーが完成する (5ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by Kyodo News

 さすがにラストスパートは吉田に勝てなかったが、それでもわずか2秒差で名取につないだ。両角監督は30秒ぐらいの差を覚悟したそうだが、松尾の粘りで最悪の事態を免れた。

「僕の前までいい流れで貯金をつくってくれて......それを全部使い果たす感じになってしまったんですけど、最低限の仕事はできたかなと思います」

 どこの大学にもブレーキになる区間があったりするが、そのダメージをいかに最小限に食い止めるかが重要になる。松尾は区間8位と本来の走りはできなかったが、それでもレースを終わらせず、十分に戦える状態で名取に襷を渡した。

「名取が頑張ってくれて優勝できましたけど、個人的にはちょっと満足いかないです。箱根まで2カ月あるので、しっかり準備をして、次につなげられればいいかなと思います」

 松尾は前を向いて、そう語った。ロード組を引っ張る存在として、4年生として、箱根は譲れないところだ。

 表彰式のあと、優勝メンバーが壇上で撮影しているなか、その端で關颯人、鬼塚翔太、阪口竜平が優勝カップを持って記念撮影をしていた。

「補欠」と笑っていたが、この悔しさを忘れないように......という意味もあったのではないだろうか。彼らにしてみれば、自分たちがいないなかで優勝したのは、うれしいと同時に猛烈な危機感を抱いたことだろう。

 郡司は「主力がいたら強いけど、いなければ自分らがそこを狙えばいい」と言った。チーム内には「誰かに頼らずとも自分たちがいる」という空気が生まれている。今回、それが結果となって表れた。今後は選手がその意識を強く持ち、より自立したチームになっていくだろう。

 箱根に向けてのメンバーは、主将の館澤亨次を筆頭に、關、鬼塚、阪口が復活し、全日本優勝メンバーである、郡司、西川、松尾、小松の4年生に、塩澤、西田、名取の「3年生黄金トリオ」、さらに2年生の市村が絡んでくれば、東海大史上最強のオーダーが可能になる。誰が出ても遜色ないチームがつくれるだろう。今回の優勝は、タイトル獲得というだけではなく、チームにもたらした財産は非常に大きかった。

  『箱根奪取 東海大・スピード世代 結実のとき』

【発売日】2019年10月4日

【発行】集英社

【定価】1,300円(本体)+税

【内容】2019年1月3日──。 往路2位から復路8区の大逆転劇で みごと箱根駅伝初優勝を飾った東海大学。 その“栄光”にいたる道程にあった苦難や葛藤、 当日のレース模様などを 監督、コーチ、選手たちの証言を交えて 鮮やかに描き出す。

そして、「黄金世代」と呼ばれて輝きを放ってきた 現4年生たちが迎える学生最後のシーズン。彼らはどのような決意で箱根連覇に挑むのか。 出雲・全日本も含む3冠獲得を目指し、東海大学の「黄金世代」が駅伝シーズンに向け、再び走り出す 。

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