東海大が主力抜きで全日本制覇。箱根で史上最強メンバーが完成する (4ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by Kyodo News

 郡司から襷を受けた7区・松尾の走りは、非常にドラマチックだった。スタートは1キロ2分47秒と悪くない走りを見せていたが、5キロぐらいだろうか、いつもの松尾らしさが影を潜め、明らかに硬くなっていた。7キロ過ぎに唾を吐くシーンがあったが、それが松尾の状態を物語っていた。実際、序盤から「体が動かない」と自分の走りに違和感を持っていた。

 うしろからは青学大の吉田が猛追していた。しかし、追いつかれることは想定内だった。出走前、両角監督から吉田に追いつかれたあとは、「焦らず、粘ってついていけ」と指示を受けていたのだ。スタート時、青学大と1分3秒あったタイム差は、10キロ地点で23秒になり、13.6キロ地点でついにとらえられた。吉田の勢いからして、ここで一気に離されると思った。だが、ここから松尾が驚異的な粘りを見せたのだ。

「ここで離されてしまうと、次の名取が苦しい走りになる。僕自身、苦しい走りだったんですけど、少しでも楽をさせてやろうと......意地を見せるというか、とにかく粘っていこうと」

 表情をゆがめ、歯を食いしばりながらも吉田に食らいついて離れない。15キロ手前で少し遅れ、「ここまでか......」と思ったが、16キロを超えると再び追いついた松尾が前に出た。

 松尾が必死の形相で吉田についていく。その様子を見ていた羽生拓矢、遠藤拓郎、木村理来、高田凜太郎ら4年生が沿道に出て、松尾に声援を送った。

「みんな(沿道に)いてくれて......絶対に離れない、意地でもついていこうと思いました」

 いつ離されてもおかしくない状況が続いたが、必死についていくことで吉田に与える心理的影響は相当あったはずだ。

 そんな松尾の姿を見て、ふと2年前の出雲駅伝を思い出した。松尾はエース区間の3区を任され、青学大の下田裕太、東洋大の山本修二、駒澤大の工藤有生らを相手に粘りの走りを見せ、懸命に耐えた。結局、4区の鬼塚翔太にはトップの青学大と5秒差の3位で襷をつなぎ、逆転優勝につなげだ。あの時と同じ覇気を、この日の松尾に感じた。

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