ラグビーの経験が生きている。
寺田明日香は2度目の陸上人生を楽しむ

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Kyodo News(競技)、Sportiva(人物)

「走りはずば抜けているけど、それ以外のところを見ると安定していないというか、技術に関しても他の選手に比べると波があるんです。ステップもハマればすごい速いし、コース取りでもハマればすごくいい走りができるんですが、それが毎回じゃない。

 それに短距離選手だから、長いフェーズ(攻撃している回数)が重なると体力が持たなくなり、判断能力もなくなってくる。私はウィングだからいろいろ指示をしなくてはいけないけど、疲れてくると声を出せなくなる。そうなるとチームも崩れてくるからこのままじゃきついかなと思って。ただ、ラグビー選手としてダメでも、このままスポーツ選手をやめるのかと考えたとき、走りだけを見ればいい部分はあったので、陸上に戻る選択肢もあるかなと考えました」

 陸上に戻れば、外野にいろいろ言われることは予想がついていた。

 ただ、最終的には「今アスリートをやめたら、その後の人生で、あの時戻っておけばよかったと後悔するときが来るんじゃないか」と考え、何を言われようがチャレンジすることを決めた。

「戻るなら、世界と戦うために必要な12秒6という数字は欲しいと思ったんです。それを骨折した時からスポンサーという形でついてくれているトレーナーさんたちに相談したら、その記録の意味を知らない部分もあっただろうけど、誰も無理だとは言わなかったんです。それで中村先生のところにも話に行き、コーチも慶応大の女子短距離を見ている高野大樹さんを紹介してもらって、18年の12月から練習を始めました」

 陸上を再び始めてみると、ラグビーで経験したことが随所で生きていると感じた。不整地のグランドを、真っ直ぐではなくステップを切りながら走る経験をし、大抵のことは大丈夫だという気持ちになった。

「ハードルに関して言えば、足に当たっても膝がちょっとジンジンするくらいで死ぬわけじゃないですから。ラグビーでは男子とやったこともあるし、私より重い人に吹っ飛ばされたこともある。体は踏まれるし、そのうえ足も折れて。一歩間違えば大ケガをするし、頭を打てば命に関わるかもしれない。そういう環境に2年間、身を置いていたから陸上に戻ったら直線に並べられているハードルが可愛くてしょうがないというか、逆にぶつかったらごめんねという感じでした(笑)」

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