2019.07.31

世界への道を拓いた高野進。
バルセロナ五輪400m決勝までの破壊と冒険

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by PHOTO KISHIMOTO

「あの五輪は本当に精神力だけでしたね。通常なら決勝に残っていない状況だったのに、よくあそこまで合わせることができたと思います。そこまでの道筋も含めた面では自分でもよく頑張ったと思うけど、バルセロナのレースだけを見れば、まだやり残したことがある……。

 あの試みをあと5~6年早く始めて、もう1回くらい(五輪に)挑戦できていれば、決勝の戦略をもうちょっと組めただろうな、と思います。周囲が想像以上に盛り上がって、すごく褒めてくれたことは素直にうれしかったけど、自分との温度差はちょっと感じましたね。そこまでの道のりには満足していたけど、結果は当然このくらいだという醒めた印象が僕にはありましたから。でも、それをレース直後に言うと『醒めている』と言われてしまうから、口にはしませんでしたけど」

 1年前の世界陸上では、念願のファイナリストになった喜びとともに、決勝では最後の直線に出るまでトップ争いをできたという満足感があった。だが、バルセロナ五輪では「新大陸を発見しようとずっと冒険をしてきて、それを発見して足を一歩乗せた途端に死んじゃった、みたいな感じで。そこで息絶えた」と笑う。

「でも、道だけは作った」と高野は言う。やがて時代を経て、何人もの日本人選手たちが世界の舞台へと進んでいった。その道を切り拓いたのは、間違いなく、高野進だったのだ。

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