桐生祥秀が10秒0台を連発。
ライバル不在で取り組んだメンタル強化

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Kishimoto Tsutomu/PICSPORT

 6月2日の布勢スプリント男子100mA決勝は、スタート直前に横風に変わり始め、結果的には追い風0.1mという条件で行なわれた。その中で、40m過ぎから抜け出し、トップでゴールした桐生祥秀(日本生命)のタイムは10秒05。この試合より2時間ほど前に、追い風1.3mの条件で走った予選に比べると、少し硬さが目立つ走りだった。

桐生祥秀の走りは、まだまだ伸びしろを感じさせる桐生祥秀の走りは、まだまだ伸びしろを感じさせる しかし、この硬い走りはあえてだったと桐生は語る。

「硬い走りをしようというか、今シーズンはそういう走りをしていないので、力ずくでいったらどうなるか試してみました。その意味では、今日はメンタルの取り組みができました」

 今シーズン当初の予定は、5月のゴールデングランプリ大阪から2週間後のこのレースで、2020年東京五輪参加標準記録の10秒05を突破する考えだった。ところがゴールデングランプリでは、ジャスティン・ガトリン(アメリカ)と最後まで競り合うレースを見せ、早々に10秒01を出した。そのため今回は、「ここで9秒台を出しておけば、7月から8月にかけてのダイヤモンドリーグにも出場しやすくなる」と土江寛裕コーチが言うように、さらに上のタイムを狙って乗り込んでいた。

 だが、大会直前になって山縣亮太(セイコー)や多田修平(住友電工)、ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)が欠場を発表。土江コーチは「勝つか負けるかという勝負をする中でのレースが、記録を出すための必要な部分だと思います。正直そこまでの状況ではなくなったので、その気持ちをひとりで奮い立たせて記録を出さなければいけない。1本目の予選を走る前から、『こういうレースでも記録を狙って出すというのを今日の目標にする』と話していました」と振り返る。

 前日の練習で、スタート練習を何本かやった後の70m走では、40mくらいからグンと鋭く加速する走りを見て、準備はできているように感じた。武器である中盤から後半にかけての加速力は、今季初めから意識していたものだった。

 予選ではスムーズな加速をしたように見えたが、本人の感覚は違い、「スタートから30mくらいまでちょっともたついてしまった」と振り返る。それでもしっかりと、10秒04とタイムは出ていた。

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