精神面の弱さは克服できたか。桐生祥秀がタイム以上に価値ある走り (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 中村博之●写真 photo by Nakamura Hiroyuki

 もしここで、勝てていたら自分でも『ガトリン選手に勝った』と口にできるようになるし、周りにも認めてもらえる。その0秒01差というのは、これまで世界を動かしてきた選手と、そうでない選手との差だとも思うので勝っていたら違ったと思う。だから次のレースでは、こんな差が出ない中盤から後半の走りをしていけたらと思っています」

 桐生は、今まで出してきた10秒01(13年、16年)や9秒98(17年)と、今回の違いについて次のように語った。

「今年は以前記録を出した時のようなダントツなレースではなく、1戦目からずっと競り合うレースをしてきた。今日は勝てなかったけど、自分の走りができたということは、これまでのタイム以上に価値があると思う」

 サニブラウンが9秒台に入り、小池祐貴(住友電工)も10秒04と自己ベストを上げてきた。さらに山縣亮太(セイコー)も調子を上げてくることを考えれば、6月27日からの日本選手権での代表争いはハイレベルなものになる。そんな中で桐生は、今後100分の1秒差を詰めるために必要なことをこう話す。

「4月のアジア選手権でも中盤の加速はもう一段階上がりそうな感じがあったので、走り自体は変えずにもう少し気持ちを上げていけばというのがあります。そこは夏になればもう一段階あがると思うし、そうすると後半の走りもその乗りで行けると思うので......。今日は1本だけのレースでしたが、10秒01で走った1時間後のリレーでもしっかり走れたし、体も元気だったので、狙った大会での予選、準決勝、決勝というラウンドを進める準備も(自分のなかでは)できているのかなと思います」

 かつての桐生は、予選と決勝で別人のような走りをしていたが、今年のアジア選手権では冷静にラウンドを進めながら気持ちを高める走りを見せていた。そのアジア選手権の優勝に加えて、今回はトップ選手との競り合いで手応えを得ることができた。それは確実に桐生の力へと変わるだろう。6月の日本選手権での勝負へ向けて着々と準備は進んでいる。

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