神野大地がMGCで勝つための戦略。
エチオピア合宿で何を得てくるか

  • 佐藤俊●文・写真 text&photo by Sato Shun

 いわゆるレースを獲りにいくという神野の考えに対して、トレーナーである中野のMGC戦略は異なるものだった。中野は言う。

「根拠があるわけじゃないですが、私の個人的な考えとしては、神野は攻めるレースではなく、自分のレースを淡々と展開していくなかでライバルが自然と崩れて落ちていく。そこで勝つチャンスが出てくる気がします」

 中野がそう思った1つの理由は、神野と昨年引退したある女子卓球選手がよく似ているからだという。卓球の場合、ここで1本を決めなければならないというシーンが必ずある。その時、彼女はその1点を取りにいった。それは「早くゲームを終らせたい」「緊張から解放されたい」という心理が働くからだ。

 だが、それは彼女の勝ちパターンとは異なるものだと中野は考えていた。

「勝ち急いで、焦って決めようとするから外してしまう。そういう姿をよく見ました。それは彼女の勝ちパターンじゃないんです。彼女は拾って、守ってを繰り返しているうちに、相手がミスをし、甘くなったところを攻めて勝つ。相手が崩れてくるのを待っていればいいんですけど、我慢できなかった。神野も彼女とタイプが似ていて、MGCを獲りにいこうとすると失敗しそうな気がするんです」

 そう感じるのは、これまでの神野レース展開とその卓球選手の試合運びを見て、何か共通する部分があったということなのだろうか。

「神野は、たとえば箱根駅伝の場合、自分から攻めていくというよりも普通に山を上がっていったら、相手が勝手に落ちてきた。そこから自然と力が湧いて、徐々にペースも上がっていったんです。この前の東京マラソンもそんな感じじゃないですか。

 逆に大学4年での全日本大学駅伝のアンカーの時は、最初から突っ込んで走って負けてしまった。何かを獲りにいこうと気負うとダメになるのかもしれません。もちろん、見え方としては獲りにいく方が強く見えるし、カッコよく見える。大迫(傑)選手はそういう感じですよね。待って、待って......相手が崩れてくるのを待つのはカッコよくは見えない。でも、神野がMGCで勝てるとすれば、このパターンかもしれないと思っています」

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