「肩の荷が下りた」神野大地。東京五輪を目指す心境に変化あり (4ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • 岸本勉●写真 photo by Kishimoto Tsutomu

 中野は、神野の切実な声に首を振って、こう答えたという。

「アスリートはみんな同じように頑張っている。神野がやっていることはアスリートとしては普通なこと。でも、神野は自分がこれだけ頑張っている、結果を出さないといけないと強く思い過ぎている。日々の練習を頑張ってやるのか、それが当たり前だと捉えるのかでレースに臨む気持ちが変わってくると思う」

 中野の言葉を神野は、すぐには受け入れることができなかったが、よく考えてみると「そうだな」と思えるようになったという。

「僕は朝起きて頑張って走ろう、今日も頑張ろう、やらないといけないという思いが強すぎて、自分でプレッシャーをかけていたんです。中野さんに、そう言われて肩の荷が下りたというか、『そんなに気を張らなくてもいいんだな。もっと心に余裕を持ってやろう』って思えたんです」

 ケニア合宿で昨年の夏よりもレベルアップした自分を実感し、メンタル面では中野の助言から自分を追い込み、過度なプレッシャーをかけることをやめた。それでもレース前日は緊張したが、心に余裕があった。

 そして、3月3日、レース本番を迎えた。

 冷たい雨が降り、気温5度程度。アップの前に体全体にオイルを塗り、スタート前に戻ってきた。神野は、雨が強く、気温が思った以上に低いため、不安になって「もう1回塗ってもいいですか」と中野に聞いた。しかし、中野はもう1度塗って雨が止んでしまうと逆に体温を上げてしまうリスクがあったのでためらった。中野は、ギリギリまで天気情報を確認し、「よしやろう」と再びオイルを塗ったのは、スタート直前だった。

「中野さん的にはギリギリの判断だったようですが、塗ってよかった」

 準備は整った。神野は、冷たい雨が降りしきるなか、スタートラインに立った。自らの運命を決める大事なレースが始まった。

(つづく)

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