今井正人が粘りの走り。
元祖・山の神には「休む勇気」が必要だった

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 岸本勉●写真 photo by Kishimoto Tsutomu

「給水ボトルに長男が『頑張るのが男だ』と書いてくれたので、勝負はそこからだと思って、そのボトルを30kmの給水に置いていたんです。でも係員が置いてくれた瞬間に倒れてしまって、そのボトルだけが取れなかったんです。その時に『クソッ』と思ったのも、ある意味で気持ちが入ったというか。それからは沿道で家族や知り合いがいたりすると『男だろ!』という気持ちでガッツポーズをして気合いを入れたり......。前もまだ見えていたから『ここで諦めてたまるか』とか、こういう天候こそ自分の見せ場だと思って走りました」

 日本人1位になった堀尾には追いつけなかったものの、日本人2位でゴールを果たした。

 2015年の東京マラソンで、日本歴代6位の2時間07分39秒を出して、同年の世界選手権北京大会代表になった今井は、暑さに強いこともあって、その世界選手権だけではなく16年リオデジャネイロ五輪も日本のエースとして戦うだろうと期待されていた。しかし、世界選手権へ向けた練習中に髄膜炎を発症して欠場。翌年の東京からまたマラソンを走り始めたが、低迷する時期が続いた。

 そんな中、昨年3月のびわ湖毎日マラソンのあと、指導する森下広一監督と話し合って半年間は、朝練習に参加するだけで、それ以外はチームと離れて時間を過ごしていた。10月にチームに復帰してからは、「新しいチャレンジをしたい」と練習も見直し、量や質のみを追求するのではなく、休むときは休むなどメリハリに気をつけた。

「やっぱり体の問題もあるけど、一番は僕の気持ちの部分だと思っていたので。それに、(レースに)臨むための気持ちをうまく作っていかないと体も動いてくれない。その意味では、特に気持ちの上げ下げを意識しました。

 以前のマラソン練習は、ガーッと集中してやっていたこともありましたが、今はポイント練習とポイント練習の間はかなり気持ちを落ちつかせて、トコトコ(小走りを)やってみたりしています。自信を持てない弱い要素は何かと言うと、やっぱり気持ちの部分が大きかったのだなと思いました」

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