福岡で神野大地に起きたダブル危機。32キロで痛恨ミスを犯していた (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by Kishimoto Tsutomu/PICSPORT

―― ベルリンマラソンの時のような激しい痛みですか。

「右の横隔膜と肝臓の間がキリキリ刺し込むような強い痛みです。これで一緒に走っていた集団からも遅れていくことになったのですが、腹痛があっても5キロ16分前後では走れるんです。この時、そのペースでいければMGC獲得の2時間1142秒はクリアできるなという感覚でした。でも、この後に低体温症になってしまって......」

 37キロ付近で神野は低体温症を発症した。低体温症とは、気温の低下など何らかのアクシデントにより体温が異常に低下したことをいう。スタート時の20度という暑さとはうってかわってレース後半はくもり空になり、冷たい北風が吹くなど寒暖差が非常に大きかった。

―― 後半はかなり冷え込みました。低体温症は天候の影響が大きかったということですか。

「スタート時がかなり暑かったので脱水症状にならないことを意識して、15キロ付近で水を体にかけたんです。その時は問題なかったのですが、25キロ過ぎから風速2~3mの冷たい風が吹いてきたんです。その頃、ペースが落ちていたので体が温まってこないし、逆に前半に汗をかいていたので冷えてきたんです。それなのに32キロ地点でもらった水を飲まずに無意識に体に水をかけてしまったんです。それが大きなミスでした」

 32キロで体にかけた水が低体温症を誘発するトリガーになってしまった。その結果、37キロ付近から残りの5.195キロはほとんどジョグのような走りになった。レース終了後、神野は「寒い」と体を震わせ、暖を取るために控室に戻ると5、6人が低体温症を発症していたという。

 その夜、神野は窪田忍(トヨタ自動車)に低体温症になったことを話した。すると、「水かけた」と聞かれた。窪田は今年、びわ湖毎日マラソンに出場し、気温が高い中、32キロまで日本人トップを独走していた。前半から体を冷やすために水をかけていたが、途中から海風が吹いて低体温症になり、35キロからズルズルと順位が落ちていった。最終的にゴールするのがやっとという痛い経験をしていたのだ。

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