「勝つ、勝つ」。マラソン井上大仁は
自分を追い込んで有言実行の金

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 奥井隆史●写真 photo by Okui Takashi

ラスト100mの接戦を制した井上大仁ラスト100mの接戦を制した井上大仁 アジア大会、陸上競技初日の8月25日。暑さ対策のため午前6時にスタートした男子マラソンは、井上大仁(ひろと/MHPS長崎)とエルハサン・エルアバシ(バーレーン)のふたりが、ラスト100mのスプリント合戦になる激しい戦いを繰り広げた。

 同じタイムで競り勝って優勝を決めた井上は「ずっとひやひやしていました」と苦笑する。

 その理由は4年前の韓国・仁川大会に遡る。同じMHPSの先輩である松村康平が、いい状態で臨みながら、仕掛けどころだった30km手前で抜け出せず、川内優輝(埼玉県庁)も含めた3人でゴール前のスプリント勝負になり、バーレーンのハサン・マハブーブに1秒差で敗れていたからだ。今回、1対1の競り合いになってから、そのシーンがずっと井上の頭の中を駆け巡っていた。

 勝因を問われた井上は「松村さんには怒られるかもしれないけど、4年前の悔しさですね。あとは自分で『勝つ、勝つ』と言っていたけど、本当に今までは目の前にチャンスが来ているのに何度も取りこぼしていたので、今度こそは勝たなければいけないと思って......。そういうこともあって、最後は力を振り絞れたかなと思います」と答えた。

 スタート時の気象は気温26度で湿度86%。後半は陽も差してきて気温は30度まで上がる条件だった。最初の10kmが33分47秒という超スローペースで始まったレースは、飛び出す選手も現れず、集団のまま推移した。

 井上の走りは、トップ集団でもっとも落ち着いているように見えた。遅いペースでもひとりだけ上体を揺らすこともなく、安定したフォーム。

「そこは持ちタイムのアドバンテージがありましたね。このなかで一番強いのは自分だという気持ちで走ったので、そういうところが大きく出たと思います」

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