実業団でも2時間6分台。大迫、設楽悠ら「オレ流」と違うMHPS流 (4ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by AFLO

「そのびわ湖毎日マラソンの結果は2時間12分台でしたけど、失敗してもいいとも思っていました。そこで課題を作って克服していけば次は失敗しないはずだと。(日本記録を保持していた)高岡寿成さんでさえ、あれだけの素質があっても初マラソンは2時間09分41秒。初マラソンでいきなり2時間6分台を記録していたら満足してしまっただろうし、そうなったら日本記録も出せなかったかもしれない。

 だから、井上はいいスタートを切ったと思いますね。2カ月の練習でも2時間9分台は出るかもしれないと思っていたんですけど、疲労が蓄積していたんでしょう。レース後には故障もしましたし、井上本人も『故障せずにうまく走れる土台を作ろう』という気持になれたんだと思います。

 ただ、井上の場合はこれまでの選手とは素質が違うから少し新しいことを試さないといけない。それで『1km3分切りでいこう。もう日本人は見ないで対外国人ランナーでいこう』と話したんです」

 今回の東京で2時間6分台を出したにもかかわらず、井上が悔しさを滲ませたのは、その目標を果たせなかったからに他ならない。学生のうちからトップ選手として活躍した井上が「勝ちたい」という気持ちを前面に出すことで、チームの雰囲気も少しずつ変わりはじめた。それを機に、他の選手たちも"その気"にさせようと、黒木は強気な言葉を用いるようになる。

「(2016年の)毎日駅伝では『旭化成に勝てるよ』と言い続けましたし、それから間もないニューイヤー駅伝も『絶対に入賞できる』と断言して、どちらも実現できた。もともと井上はそういう気持ちを持っていましたが、それがチーム全体に波及し、レースで競り負けていた選手たちもトラックレースなどで粘り勝ちすることが多くなったんです」

 そんな黒木の言葉通りに、今年の東京マラソンでは井上に引っ張られるように木滑が自己ベストを更新。東京五輪の代表選考レースである、2019年のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)出場権を獲得した。

 MHPSの選手たちは、井上と木滑の姿にさらなる勇気をもらったことだろう。MGC出場をかけたレースは来シーズンも続くが、黒木に導かれたMHPSの"新星"が台頭することを期待したい。

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