ポルシェとプリウス。高橋尚子が神野大地に教えたマラソンの極意とは (4ページ目)

  • 佐藤 俊●文・写真 text & photo by Sato Shun


 集団で走るなか、神野は一度、相手を引き離そうとした。7.3km付近で仕掛けて前に出たのだ。しかし、思ったほどライバルたちは離れなかったのである。

「自分はけっこう踏んでいるんですけど、いき切るきることができなかった。ちょっと後ろを見るとみんないましたからね。そこからは力をタメようと考え、途中からはジョグみたいなスピードで走ってしまった。(自分は)何やってんのかなって思ったけど、そういう中でも入賞だけは外せないと思って走っていました」

 気になったのはMHPSの松村康平だったという。

 集団の中では力のある選手である。神野は、「松村さんがガンガンいってくれれば」と思っていたが、松村も入賞圏内を目指し、自重していたのだ。

 ラスト500mになると、DeNAの木津晶夫や松村らが一気にスパートした。神野も遅れずに必死に食らいついた。歯を食いしばり、スピードを上げていった。

「ラストはありったけの力を出すスパートになると思っていました。その時スカスカだと勝負できないんで、タメまくっていたんですが、最後はマジでキツかった」

 決してスピードがあるほうではないが、神野は渾身のスパートを見せた。しかし、木津を抜くことができず、7位でフィニッシュした。

「チームの目標には届いていないですけど、入賞圏内に入ることが僕の最低限の仕事だと思っていたので、状態が悪いなりにもそれが達成できてよかったです」

 神野はそういってオレンジジュースを飲み干し、小さな笑みを浮かべた。

 入賞を意識し、お互いに牽制し合ったせいかタイムは伸びず、区間順位は12位だった。しかし、神野が襷を受けた時点では入賞が目標となっており、アンカーは順位がすべてだ。タイムまで求めるのは酷といえよう。

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