ただひとり「世界レベル」の大迫傑。
独自のメソッドで五輪メダルを狙う

  • 佐藤 俊●文 text by Sato Shun
  • photo by Kyodo News

 その時は5週間程度、ボルダーの高地でトレーニングをこなし、心肺機能を高めた。メニューも通常は40km走を数本走るなどして距離に対する不安を解消したり、距離の感覚を養ったりするが、大迫は40km走にこだわることはしなかったという。

「自分は練習を点と点で考えているのではなく、流れのなかで、どう質の高いポイント練習をしていくかということを考えているので、特に40km走にこだわりはないです」

 今回、結果が出たボストン前とほぼ同じメニューをこなしてきた。

 また、ボストンではマラソンへの適性に自信を深めることもできた。走ることでマラソンは自分に向いているのか、向いていないのか、何となくわかる。大迫は走りの内容を含め、結果を出すことでマラソン向きであることが自覚できた。

 大迫はランナーのべースとして日本選手権1万mを2連覇、5000mの日本記録を保持するなど、日本のトラックでは他選手に負けないスピードと勝負強さを持っている。そのスピードを活かしたマラソンが大迫のスタイルだ。

 日本のマラソンは地道に距離を踏む練習をこなし、レースを積み重ねていくやり方が一般的だが、最近はトラックでスピードを強化し、そのスピードを長距離にうまく転化していくスタイルをとる選手や大学が増えている。アメリカのナイキ・オレゴンプロジェクトでトレーニングをしている大迫は、まさにその最先端におり、そのスタイルの成功例でもあるのだ。

 39km付近でトップ争いから落ちてきたカロキをとらえ、2位争いをキプロティクと演じた。ロンドン五輪マラソンの金メダリストに堂々たる勝負を挑み、3位になって平和台陸上競技場のトラックに飛び込んできた。大勢のファンが大きな歓声と拍手を送る。そして、トップのモーエンから遅れること1分31秒後、フィニッシュラインを切った。

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