桐生が壁をぶち破る。日本は
「東京五輪で9秒台がゾロゾロ」となるか

  • 折山淑美●取材。文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Kyodo News

 そんな中で、桐生のスタートはリアクションタイムが0秒139と、キレのある飛び出しをした。一気にピッチを上げるのではなく、徐々にピッチを上げる走りでスムーズに加速。無理にエネルギーを使わなかったことで中盤からの速度も上がり、終盤も広いストライドを維持して減速を抑え、これまでより約1歩少ない47.3歩でゴールを駆け抜けた。

「予選と準決勝を走って中盤から後半にかけてのスピードの上げ方もだんだんわかってきて、スピード練習はしなかったけど250m走の練習を5日連続くらいでやっていたので、100mでは最後までバテないだろうというのもあった。そういう練習をしていたからストライドも広くなったのだと思います」

 多田も決勝では、リアクションタイム0秒138という好スタートを切って10m過ぎからうまく加速に乗り、10秒07の自己新をマークする素晴らしい走りをしたが、桐生の加速はそれを上回った。

 これまでの日本記録保持者でもある、日本陸連の伊東浩司強化委員長は「今日はレースがどうこうよりも、桐生の走りからは意地を感じた」という。

 桐生自身も、「今までの日本選手権では悪くても3番には入っていましたが、今年は代表になれなかったので、ロンドンにいた時も100mを見ていて『俺、あそこに立ってないな』と思ったし、ハキームくんが決勝に残ったのを見て『俺は個人で出てないし......』と思いました。でもそれで、自分が最初に9秒台を出したいという気持ちが燃えてきて。そればかりを意識しているわけじゃないけれど、結局、記憶にも記録にも残るのは最初じゃないですか。高校3年生で10秒01を出してからは、それを口にしなくても『最初に俺が出してやる』と思っていたし。逆に『俺じゃなくても誰でもいいや』と思った時点で勝負には負けてしまうと思うので、その気持ちはずっと持っていました」とずっとブレることのなかった思いを明かした。

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